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梅々

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よしきた

できたんであげます。次で終わるかな。
おきたん土沖です(^^)















だって求めるしかできなくなる。





茜の空の誘う艶言
七、弾く雨音





 おまえは綺麗だよ、夢と同じ声音に眉を寄せた俺を土方さんは壊れ物を見るような目付きで見た。そのまま、優しく頬を包まれる。
 そんなはずがない。そう思った直後に否定されたからなんとも言えない気持ちになる。綺麗? そりゃ面構えだけだろう。化粧しなくても姉上とそっくりな、この顔だけ。
 空しくなってきて、交わらせていた視線を外す。
 届かないものだと知っていたから蓋をして目を反らしていたのに、どうして蓋を開けてしまったのだろう。この手は気紛れで触れてくることをきちんと分かっているのに。

「帰るから、離してくだせェ」

「だめだ。おまえは、何にも分かってない」

 図星だからムッとする。土方さんに比べれば俺はとても無知で、でもそれは仕方のないことで。抑、この話の流れでそうくるか?
 イラッときたままほどこうとするけれど、嫌みな程に強い力はそれを許してくれなくて、ただ温もりを分かち続ける。
 雨は止むことがなくて、体温を奪い肌を伝う。それならばいっそ、俺の汚い心を洗い流して清めてくれればいいのに。
 何もかも忘れられるぐらい。

「総悟、悪かった」

「だからなにがですかィ」

「傷つけた」

「なんで俺が傷つく必要があるんですかィ」

 傷つけた、なんて言っている土方さんの表情こそきずついた人のするもので、訳が分からなくて抵抗するのも止め体の力を抜いた。それを勘違いしたのか、土方さんは俺の腕を引いて、強かに―――――抱き締めた。
 とくん、とくんと心音が体に心地よく響いて、触れ合った肌から暖かさが滲む。それがとても自分に馴染むものだから、拒みもせず抱き締め返しもせず、ただされるがままでいる。

「ただあまりにも似てたから・・・責められたのかと思った。そんで名前呼んだらおまえ、あんな顔したから」

「へ・・・?」

 あまりにも自己完結した言葉で、一向に意味が分からない。何も分かってない、って言ったのはあんただろ。なのになんで分かりやすく言わないんだ。
 睨みあげたら殊の外顔が近くて、慌てて反らそうとするまえに優しい指先がそれを許さなかった。顎を掴まれて、どうにか視界から土方さんの顔を外そうとするが、叶わない。どうしようもなくて俺は、真っ正面から真っ直ぐ見据える。

「大事なんだよ、おまえが」

「・・・大事なら雨の中こうしてやせんぜ。フツーなら軒下に移動しまさァ」

「・・・それもそうだな」

 妙に納得したような顔をしたものだから笑ってしまった。声を上げて笑う俺にムスッとしつつ、土方さんは俺を軒下へと促す。
 今更な気もしますけどねィ、言いながら前髪を一房つかんで見る。そういやこんなこと誰かにされたな、記憶の糸を辿ると横に立つ男にされたのだと思い出した。厳密に言えば夢の中の土方さんに。つまり俺の頭の中のこの人はこういうことをする人なのか。
 そう思って気付いた。夢の中で言われたあの言葉。言われたかった、とかそう思われたいだとか、そんな風に考えているから夢に見たのじゃないか。
 ならば、なんて薄ら寒い。

 気持ち悪いのはこの人より俺じゃないか。

「・・・久々に昨日夢見てよ」

「・・・はぁ、話の流れがさっきから分かりやせん」

「おまえの夢を見た」

「・・・は、」

 俺も見た、言う前に頭が信じられない速度で回転して、視界がぐわん、と一瞬歪む。
 これで同じ夢を見たとかだったら、下らない妄想ではなくなるわけだけど、同じ夢を見るだなんて、それは一体何を示しているのか。
 微かに笑った土方さんは徐に近づいてきて、俺は壁にとん、と背をつける。壁に手をついて此方を見る彼が、あの夢と重なる。逃げ場がない、だけれどそれがとても安心する。

「こうして、おまえといる夢だった。おまえが俺ンとこに来てよ、」

「あんたはこうして、俺を閉じ込めた」

「・・・え、」

 驚いた顔が見ものだった。
ああやっぱりそうだったのか、なんて合点しつつ笑うと未だ濡れている指先が、濡れたままの頬に触れた。視線を反らせない、初めて見るような表情を浮かべ接近する、端整な顔。
 重なった、唇。
雨の音が世界を包んだ。

「ン、」

「総悟・・・」

 刹那触れては離れて、また重ねられる唇を求めるように、土方さんの首に腕を絡めて瞼を閉ざす。
 それだけで体がふわふわして、変な声が出そうになって、唇を固く閉ざしていると吐息交じりに総悟、と囁かれた。耳からの刺激に体が大きく跳ねて、その反応に赤面する。
 なんでこんなことになってんの、というかなんでこんな情けないことになってんの。自問に答えを返せる程頭は回らなくて、縋るように瞼をあけると鼻先がくっつくぐらい傍で熟視られていて。
 その視線だけで腰が砕けそうになる。

「ひじか、たさ・・・」

「声、我慢すんなよ?」

「んっ、あ・・・」

 唇をぬるりと舐められてぞくり、と肌が粟立った。丹念に舐めて、それからその舌は内部を舐め始める。
 ファーストキスだ、気付いたときには腰を抱かれ、大きな手で耳を愛撫しながら口内を存分に味わわれていた。

「ぁん、っふ・・・ぁんん・・・」

 雨音に混じる粘着質でいやらしい音に、欲情した。
 肌を這う、熱を持った指先に煽られた。
 解放しては低く名前を奏でる、濡れた唇に全て奪われた。
 愛しくて堪らない。ほしくて仕方がない。だって、強請ればすぐにキスを与えてくれる。

「ん・・・もっと・・・、土方さん・・・」

「いいぜ・・・」


「あっ・・・」
 囁かれるだけで身体中がおかしくなりそうだ。俺は耳が弱いのだと攻められて知って、そこばかり指で構われて涙が出そうになった。流石に、そこまではプライドが許さない。女のように甘ったれた声を出している時点でどうかとは思うけれど。
 煙草の苦さを纏った舌が愛しくて、必死になってされたようにしかえした。
絡めて、吸って、舐め回して。
 やっと、というよりは望まずも離れた唇と体に切なさが募って。ぎゅっと強く抱き締めれば同じように強かに抱き締められる。

「可愛いなぁ、おまえ」

「あっ・・・! いまの、あんたわざとだろィ?」

「なーにが?」

「っ、だから、耳元はダメって・・・」

「なんで、だよ」

 楽しげに耳元に吐息を送られて、胸が千切れそうなぐらいにドキドキ五月蝿くなった。わざと低めの声を出しているのが腹立たしい、体に力が入らなくなる。
 感じてる、なんて見て分かるだろうに、それでも意地悪く問いかけられて首を振るしかできない。
 ごちゃごちゃ考えていたことは全てキスに拐われて、馬鹿みたいに欲しがってしまう。俺のプライドは玉となって砕けたか。

「・・・変に、なるからやめろィ」

「・・・どうしてだ?」

「そういうあんたは、なんで俺にキスしたんで」

 問うと、今まで目にしたことがないぐらい満足げな笑みを浮かべて囁かれた。

おまえが、好きだからだ、と。

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