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梅々

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凄く痛い…。

突発的腹痛に襲われた午後二時半。
用心深い叔母様に病院へ拉致られました。多分原因は朝飲んだ牛乳。腹痛は持病だと言いましたのに…。

んで、至上最高の七錠もの錠剤。
しかも食事制限。え、何ダイエット?




畜生。




それでは告白ネタで百人一首。














朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに
吉野の里に 降れる白雪





車と煙草の関連性





息苦しくなる密室を、

些細な一言が大きく変えた。




優雅さを感じさせるクラシックが、車内に流れている。
だからといって運転手がクラシックを故意につけたわけではなくて、偶然つけたラジオで流れていたから偶々、流しているだけなのだろう。
意外かもしれないが沖田はクラシックもわりと好きだ。自らかけて聞く程ではないが、楽器の音を聞きわけられるくらいには、好んでいる。
だからいつもの饒舌は上の空。無味な空気だけが漂っている。
土方もどちらかといえば、沈黙を尊ぶ人間であるからにして、あえて何かを言おうとはしない。
─────優雅な曲だけが、沈黙を乱す。
それはそれで、自分らに合わないが嫌いじゃないのだけれど。
土方と二人っきりでいる密室は好まない。
どうせなら、近藤とがいい。土方のように煙草を吸ったりしないし、七割方お妙のことだが明るい、楽しい話をしてくれる。と運転席側に漂ってきた煙を払いながら思う。

「……好きだ」

「はぁ。煙草が?」

脈絡の無い科白に、足りない頭で考えてみるがそれぐらいしか思いつかなかった。
変な沈黙の破り方だ。
こんなこと、日常茶飯事だけれど、それにしても。
“好きだ”と断言されても此方は困る。ああそうですか。としか返せない。他になんて返答すれば良いのだろう。

「……煙草じゃねぇよ」

「じゃあ、もしかしてクラシック?」

ありえない。と思うが他に思いつかないから念のため聞いてみる。
心成し不機嫌そうに見えるのは気のせいだろうか。さっきまで普通だったのに。
女心と秋の空とか云うけれど、土方は女じゃない。短気だから仕方がないのかもしれないが。

「そんなもん好きじゃねぇよ」

「でしょうね。じゃあ、何が好きなんで?」

「───お前」

「へー、そーなんで………えぇぇっ!!」

キィッ、と思わず急ブレーキ。
しかしながら生憎と、心中できるような危険な道を通っているわけではない。雪が降り積もって滑りやすくなっているが、田んぼと住宅街に囲まれた、対向車も後続車も無い普通の一本道だ。
被害は無いが、シートベルトをしているが故に首にくる。

「…ぃって」

「…あんた何しょーもない冗談を、」

仕事中に酒を飲むような人ではないから、彼は絶対に素面だ。だからこそ、真面目な顔して言われたその一言に重みが生じる。
しかし土方が自分に惚れるなど信じられない。
それじゃあやはり、冗談?
冗談言うような陽気な性格を土方はしていないけれど…。
真意を計りかね、顔をマジマジと見つめる。
視線を気にしていないかのように土方は煙草の灰を捨て、指先で持ったまま窓に腕を乗せる。煙が此方に来ないよう気を使ったのだと思う。中々様になっている。

「冗談だと思うか?」

「…思いたいけど…思えない……」

「だろ」

真顔で問われても、肯定されても、困る。
どうしろと、言うのだ俺に。
そんな目で、土方を見たことは一度も無かった。良くいえば友人、だとしか。そりゃ、芸妓とか、団子屋の看板娘とかとにかく女の人にモテているというのは知っている。近藤が何度もひがんでいたから。
だけど、俺から見たらただのムカつく上司でしかなかった。
こんな告白、されるまでは。

「なァ、総悟」

「……ッ!!!!」

肩を触られ思わずビクリと身をすくめる。刹那触れただけなのに、いつまでもその感触が消えない。
意識なんて、してないはずなのに。告白なんかされても、困るだけなのに。
顔が熱る。
意識とは裏腹に頬が紅くなって、それを隠すようにハンドルに寄りかかる。

ちょっと待て変だ俺。

なんでこんな人相手に俺が………、俺が─────。

「…ちょっと煙草買ってくる」

「へい………」

ベルトを外す音に続き、ドアを開閉する音が耳に届き、伏せていた顔を上げる。前方10m程先にある自販機へゆっくりとした足取りで土方が歩いて行くのが見える。
数分の猶予を貰っても何も変わらない。頬は熱ったままで、気持ちだって、整理のつかないままだ。
なんで、なんで。このタイミングでそんなこと言われたって事故るだけだろう。今回は大事に至らなかったけれど下手したら死んでた。空気を読め、と文句を言いたくなるが口をきくことさえ躊躇われる。
─────求められても困るというのに。
何を俺に求めているのだろうか。

ガチャ。
再びドアが開き、煙草と茶を持った土方が隣に滑りこむ。
動悸が治まらない。小娘みたいに、ドキドキする。こんなの俺らしくない。まともに土方の顔さえ見れないなんて…。
とくん、とくんと自分の心臓の音がやけに大きく感じる。

「…どうして欲しいんで?」

「…分かるだろ」

分かるけれども。
恋愛対象ではない人相手に、簡単にイエスとは言えない。
それならば、さっさと断ればいいものを。
断れない。

─────なんで?

なんで、断れない? 色恋沙汰が苦手な俺だって、返事は早い方がいいと知っている。それに、好きでもない人から告白されても悩むことなくふるし。
…とどのつまり、俺は土方を“好き”ということになるではないか。
間違った結論だ。
余計悩んでしまう。

「総悟」

「…へい」

「キスしていいか」

「はぁ!? 俺まだ好きっつってないですぜ!!」

「…俺のこと好きなのかよ」

「っ!! そういう意味じゃ…」

肩を抱くように、俺の座席の背もたれに腕を乗せ、土方は新たに煙草に火をつける。煙草を吸っている間はキスされる心配が無いからいいけれど。
近い。助手席と運転席の間を埋めるように伸ばされた手が、トントンとリズムを刻む都度、また触られるんじゃないかと心臓が爆発しそうになる。
好きじゃない、ってのに。

「…俺なんかとキスしたいなんて思うんで?」

「ああ」

「…それ以上も?」

「それ以上も」

「……っ」

顔を上げて見ると、土方は真っ直ぐ此方を見て、口角をあげ柔く笑んだ。
冗談じゃない。男同士で、なんて笑えない。土方とキスするなんて想像もつかなくて、それ以上なんてそれこそ、想像しようがない。
…ホモの人達ってどうヤってるんだ? …いまはどうでもいいが。
笑みを浮かべたまま土方は挑発するように呟く。

「ふるんならさっさとふれよ」

「……」

土方の言う通りだ。さっさと、あんたとなんか付き合えねぇよと言うべきだ。そう思うのに、言葉が出てこない。
背もたれにかけられていた土方の手が、ぽふぽふと俺の頭を撫でる。
触れられた場所から熱をもつような感覚に心拍数があがる。土方に聞こえてしまっていそうで恥ずかしくて堪らない。金縛りにあったように、体が動かない。ひとつ金縛りと違うのは、何故だか俺が安心しきっていることだ。
煙草を捨て、土方は身を乗り出し、律儀に膝の上に置かれた俺の手をそっと握り締めてくる。
チラリ、と土方を恨みがましく見上げると、フッ、と独特な笑みを浮かべ唇を重ねられた。
そっと壊れ物を慈しむような触れかたに動悸が治まっていくけれど代わりに、頭がフワフワしてくる。

─────嫌じゃない。

土方と、キスすることが。
もっと気持ち悪くなるかと思っていたのに、全然そんなことない。
それどころか、ずっと触れていてほしいと思うぐらいだ。

「嫌じゃなかっただろ?」

コクリと素直に頷くと、再び口付けられる。チュッ、チュと啄むような口付けに無意識に土方の服を握り締めていた。
思考が溶かされる。そう思ってしまう程恍惚とする。

「…ん………ハァッ…」

「嫌いか、俺のこと」

「…嫌いでさァ。……でも、どうしてもっつうなら付き合ってやってもいいですぜ」

そう言うと呆れたように土方は微笑み、助手席に座り直す。

「いつか好きだってその口から言わせてみせっから」

「やれるもんならやってみなせェ」

視線が絡み、どちらからともなく口付け合う。

真っ白な雪に囲まれて。





#31

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