梅々
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もうむり
眠い!!
卒業ネタ終わりました!
スランプですごめんなさい(((・・;)
沖土だけど土沖でもいけそうな感じです。
一応サヨナラの空を主軸にしたはずですが挫折しました←
卒業ネタ終わりました!
スランプですごめんなさい(((・・;)
沖土だけど土沖でもいけそうな感じです。
一応サヨナラの空を主軸にしたはずですが挫折しました←
花嵐に、霞んだ君は
いつの間にかいなくなっていて
春宵一刻値千金
青く広がる空、暖かい風、質素な視界を彩る桜。
春を犇々と身に感じながら最後の下校。桜の並木道は木漏れ日と花弁の両方を寄越し、風にさわさわと騒ぐ。
あっという間に卒業式も終わり写真撮影も慌ただしく過ぎ去り、訪れたのは静かな時間。
二人きりという事実はとても嬉しいもので、だが同じくらいに悲しくもある。
最後、だから。
「総悟」
「へい?」
「・・・やっぱ、なんでもねぇ」
「なんでィ」
振り向いた総悟の表情はいつも通りの無表情。屋上で見せた寂しげで憂いを帯びた表情もどこへやら。
けれどそれでいいのかもしれない。今日は終わりであっても、それは高校生という限られた期間のものの終わりであって、この関係の終わりではない。気にする俺が、おかしいのだ。
「桜、綺麗ですねィ」
「だな。今年は咲くの、早いらしいな」
「・・・今咲いてるのもいずれ散るんですよねィ」
「・・・いずれ、な」
なんで綺麗だと言った後にそんなことを言うのか。下を向いた総悟に倣って下を向けば、灰色に汚れた花びらがいくつもそこにあった。
ぶわぁぁと風が強く吹く。散ろうとしていた薄く淡く色づいた花弁は、風に拐われ舞い上がる。
目の前の金色も風に舞って、木漏れ日に煌めく。
好きだ、と思う。困らせられることの方が多いがそれでも、愛しい。ずっと傍にいて、ずっとこの関係のまま生きていく。思い合えることは望んじゃいない、ただ傍にいられれば。
死ね死ね言い合いながらも結局はこうしてつるんでいたのだから、これからもそれは変わらないだろう。ストーカーに走る近藤さんを眺めて、三人で馬鹿やって。
なんて思ってる時点でもう感傷に浸っているのだと気付いて思考を違う方に向ける。
「・・・結局おまえ、ボタン誰かにやったのか?」
「ボタン? ああ、制服のですかィ」
ひょいと覗き込んでみると見事に学ランのボタンは無かった。中学の卒業の時もそうだったとふと今朝思い出して、そして今回も同じように女子に囲まれた俺と総悟。近藤さんの視線が痛かったができることなら代わってくれとどれだけ切に思っているか。それは総悟も同じで。
たかが釦、されど釦。数年後、第二釦がない学ランを見て武勇伝を語るようなキャラは俺も総悟もしていなくてどちらかというと、自分が着ていた状態を保っておいて、喧嘩してここ破いただのそういうのを大事にしておきたい。
「中学のときの反省をしやしてね、卒業式終わってから全部自分で取っちまったんでさァ。帰って姉上に付けてもらえば、元通りですぜ。あんたは?」
「俺は学ランは止めろっつったらじゃあワイシャツのって言われた」
「あぁ、だからアンタ暑苦しくボタン全部閉めてんですかィ」
ククッと堪らなく可笑しそうに、それでいて控え目に笑う。ばか笑いをあまりしないのは姉の躾か遺伝か、そういうところも、好きだったりする。
つまりベタボレ、誰に指摘されても反論の余地がない。
そんなこんなでいつも通りの別れ道。右へ総悟が曲がり俺は直進する。
いつも、それじゃあと言い出すのは総悟で、俺はそれにまたなと返して終わる。けれど、今日は何も言ってこない。
「総悟、おまえどうかしたか?」
「なんでですかィ。・・・最後くらい、アンタから言い出したっていいでしょう」
冷たい風が、佇む俺たちの間をそよぐ。
最後だからこそ言いづらいものがあるのに。普段の「じゃあな」でさえ言い出せなかったのにこんな区切りのある日になんて益々言えない。
もしかしたら、総悟も同じ思いなのか。最後だから、言いづらい、とか。
そう考えたら現金なもので、そんな言葉はちっぽけなものだと思ってしまう。
「じゃあな、総悟」
「・・・サヨナラ」
微笑を浮かべた姿。
あれから、総悟を見ていない。
*
総悟が、ミツバの療養に付き添い引っ越したと知ったのは大学の入学式の翌日だった。春休みの間は会いはしなかったがそれなりにメールもしていたから変わりないと思っていたのに、総悟は何一つ言うこと無く俺の前から姿を消しやがった。
「・・・っ」
ガクッ、と体が倒れかけて目が覚めた。夢の中だからこのままサヨナラしたらもう会えないというのがわかっていて、必死に手を伸ばすも意味はなく。
窓の外を見れば乗った時には明るく景色を照らしていた太陽も沈み、月が代わりに空に浮かんでいた。
あれから四年。ずっと考えていた。どういう意図で何も言わなかったのか会いに行ってもいいのか。大学の卒業式を終えてハッとした。今は、別れの言葉さえ言うことができないのだと。
四年も、傍に居なかった存在。だけどそれまでは呼吸をするのと同じぐらいに自然に、隣にいた存在。拒まれてもいいから会いたくて堪らなくなった。
会えない時間は愛を育むというが、恥ずかしいことにあてはまってしまった。
総悟は、いま駅の傍にアパートを借りて住んでいるらしい。ミツバは入院中で、総悟は一人。近藤さんには年賀状だけでなく季節毎の見舞いも出していたというのが腑に落ちないがそのお陰で住所が分かったのだから何も言うまい。
電車を降り、ボストンバック一個を片手に住所を頼りにアパートを探す、するとすぐに目当てのそれはあった。一階奥の、ドアの横に沖田と懐かしい字で書いてある。
もしも、これ以上ないというぐらい拒絶されたら。インターホンに指を当てたらそんなことが頭を掠めて、押しそびれる。
それでもいいと思い来たけれど、傷つきはするし望んでいない。
「なんて、うだうだ考えてもしかたねぇな」
折角来たのだから、と指に力を込めた。
ありふれた機械音の後、近づいてくる跫、そしてガチャとドアが開く。
「へい―――」
「総悟、」
俺の姿を認めて、驚きに目を見開いた総悟に、色んな感情が胸から押し寄せた。
やっぱ好きだという実感と、なんで何も言わなかったという憤慨、寂しさ、喜び。抱き締めたくなる衝動を拳に力を込めて堪え、総悟の出方を窺う。
帰れと言われたら帰る。その代わり多分また会いに来るが。
「ひじ、かたさん」
「俺だよ」
「・・・本物?」
困惑した表情で失礼なことを言いやがるから、思わず頭を叩いた。すると本物だと呟いたものだから余計。
どうぞ、言って総悟は部屋へ戻っていった。今度は俺が困惑する。拒まれるかもとは考えていたが上げてもらえるとは考えていなかった。一目会って話したら、ホテルに一泊して帰る予定だった。俺が総悟の家から出る頃まで、やっているホテルがあるといいけれど。
靴を脱いで廊下兼台所を通りすぎ居間へ上がる。小さなテーブルが部屋の真ん中に置かれていて、そのわきにベッドとテレビが置いてある。前の総悟の部屋と同じくらいの広さだ。綺麗な分、物が多くても今の方が広く感じる。
「布団の上に座りなせェ。座布団は俺のしかないんで。茶は今出しやすから」
「ありがとな」
干したばかりなのか日溜まりの匂いのするふかふかな布団に腰かける。申し訳ない気がするが総悟がいいと言っているんだから気兼ねする必要はないだろう。
茶を淹れている後ろ姿をじっと観察する。玄関でも思ったが、背が伸びたようだ。身長差が縮んでいた。それに、顔つきも少しだけ変わった。目の丸っこさも肌の肌理細かさも変わりないが、輪郭の丸みが若干鋭利になった。
「・・・で、なんでここに?」
茶を置きながら、当たり前の疑問を口にする総悟に苛立ちを覚える。分かれよ、ともどかしさを伴う苛立ちは独り善がりのものだとは知っていても、どうしよいもない、
「お前に会いに来たんだよ。知らねぇ内に引っ越してやがって」
「・・・言い出せなかったんでさァ。アンタが怒るの、分かってたけど」
「分かってたなら、」
言ってくれればよかったのに。
最後まで言う前に言葉が詰まる。全部言ったら泣きだしそうで、歯をくいしばる。
感動のあまり情緒不安定だ、まともな話はできそうにない。
「でも、俺はアンタにちゃんと言いやしたよ」
「なにを」
「・・・アンタを忘れることはねぇ、死んでもって」
真っ直ぐと目を見て言われた言葉を口の中で反駁する。何か思い出せそうで、喉元まででかかっているのに思い出せない。
悩む俺に総悟は溜め息を寄越し立ち上がる。そのまま離れていくのだろうと目で追いかけていたら何故か、総悟は近づいてきて。俺の横にしゃがんで、顎を掴む。
「折角言ってやったのに忘れたんですかィ?」
「仕方ねぇだろ、忘れたんだから」
顔が近いことに動揺する俺に気付いてか、総悟はますます身を乗り出してくる。距離を取ろうと上体を倒したら、総悟はそのまま俺の上に乗ってきて。
密着した部分がやけに熱い。心音が五月蝿い。思い出すことに集中しようと瞼を閉じる。
「じゃあ、思い出せないままでいいんで。何で俺に会いに来たのか教えてくだせェ」
「だから、おまえが何も言わなかったから、」
「なら怒りなせェよ。なんで怒ってないんで? なんでアンタ、そんなに泣きそうな顔してんの」
言われてハッと瞼を開けたら頬を液体が伝う感触がした。まさか、と手をあてるとそれは目から流れている。
なんで泣いているのか。それはもちろん嬉しいからだ。四年ぶりに会えた、拒絶されなかった、会話に隔たりが一切ない。小さなことばかりだけど、それが嬉しくて。
「・・・お前が、好きだからだよ」
全てはそこに繋がる。
総悟が愛しいから怒って、喜んで、泣く。馬鹿みたいだがそうとしか言えなくて、涙が流れるままに身を委ね瞼を閉ざす。
ぺろり。
今度は涙の筋を濡れたものが撫でて、ぎゅうと抱き締められた。閉ざしたばかりの瞼を開けば、総悟の舌が涙を掬っている。
じっと見ていたら、にこりと総悟が笑った。どきり、胸が鳴る。
「もしもアンタが俺に会いに来たら、二度と手放さないで居ようって決めてたんでさァ」
「・・・なんだよ、ソレ」
「察してくだせェ」
言葉と共に、唇が重ねられる。ちゅっ、と触れて離れ、もう一度触れたそれから舌が差し込まれ口の中をあやそうとする。
何も考えられない。何よりも、総悟が目の前にいてキスをしているという事実が素晴らしすぎて。
離れた唇にもっとしろと求めると、柔らかな笑みが降ってきた。それは、あの時と同じ表情だけど違う感情を孕んだもの。
花は咲いて、そして枯れる。けれど、全く同じではなくても同じ季節がやってくればまた花は開く。
何度も、何度でも。
いつの間にかいなくなっていて
春宵一刻値千金
青く広がる空、暖かい風、質素な視界を彩る桜。
春を犇々と身に感じながら最後の下校。桜の並木道は木漏れ日と花弁の両方を寄越し、風にさわさわと騒ぐ。
あっという間に卒業式も終わり写真撮影も慌ただしく過ぎ去り、訪れたのは静かな時間。
二人きりという事実はとても嬉しいもので、だが同じくらいに悲しくもある。
最後、だから。
「総悟」
「へい?」
「・・・やっぱ、なんでもねぇ」
「なんでィ」
振り向いた総悟の表情はいつも通りの無表情。屋上で見せた寂しげで憂いを帯びた表情もどこへやら。
けれどそれでいいのかもしれない。今日は終わりであっても、それは高校生という限られた期間のものの終わりであって、この関係の終わりではない。気にする俺が、おかしいのだ。
「桜、綺麗ですねィ」
「だな。今年は咲くの、早いらしいな」
「・・・今咲いてるのもいずれ散るんですよねィ」
「・・・いずれ、な」
なんで綺麗だと言った後にそんなことを言うのか。下を向いた総悟に倣って下を向けば、灰色に汚れた花びらがいくつもそこにあった。
ぶわぁぁと風が強く吹く。散ろうとしていた薄く淡く色づいた花弁は、風に拐われ舞い上がる。
目の前の金色も風に舞って、木漏れ日に煌めく。
好きだ、と思う。困らせられることの方が多いがそれでも、愛しい。ずっと傍にいて、ずっとこの関係のまま生きていく。思い合えることは望んじゃいない、ただ傍にいられれば。
死ね死ね言い合いながらも結局はこうしてつるんでいたのだから、これからもそれは変わらないだろう。ストーカーに走る近藤さんを眺めて、三人で馬鹿やって。
なんて思ってる時点でもう感傷に浸っているのだと気付いて思考を違う方に向ける。
「・・・結局おまえ、ボタン誰かにやったのか?」
「ボタン? ああ、制服のですかィ」
ひょいと覗き込んでみると見事に学ランのボタンは無かった。中学の卒業の時もそうだったとふと今朝思い出して、そして今回も同じように女子に囲まれた俺と総悟。近藤さんの視線が痛かったができることなら代わってくれとどれだけ切に思っているか。それは総悟も同じで。
たかが釦、されど釦。数年後、第二釦がない学ランを見て武勇伝を語るようなキャラは俺も総悟もしていなくてどちらかというと、自分が着ていた状態を保っておいて、喧嘩してここ破いただのそういうのを大事にしておきたい。
「中学のときの反省をしやしてね、卒業式終わってから全部自分で取っちまったんでさァ。帰って姉上に付けてもらえば、元通りですぜ。あんたは?」
「俺は学ランは止めろっつったらじゃあワイシャツのって言われた」
「あぁ、だからアンタ暑苦しくボタン全部閉めてんですかィ」
ククッと堪らなく可笑しそうに、それでいて控え目に笑う。ばか笑いをあまりしないのは姉の躾か遺伝か、そういうところも、好きだったりする。
つまりベタボレ、誰に指摘されても反論の余地がない。
そんなこんなでいつも通りの別れ道。右へ総悟が曲がり俺は直進する。
いつも、それじゃあと言い出すのは総悟で、俺はそれにまたなと返して終わる。けれど、今日は何も言ってこない。
「総悟、おまえどうかしたか?」
「なんでですかィ。・・・最後くらい、アンタから言い出したっていいでしょう」
冷たい風が、佇む俺たちの間をそよぐ。
最後だからこそ言いづらいものがあるのに。普段の「じゃあな」でさえ言い出せなかったのにこんな区切りのある日になんて益々言えない。
もしかしたら、総悟も同じ思いなのか。最後だから、言いづらい、とか。
そう考えたら現金なもので、そんな言葉はちっぽけなものだと思ってしまう。
「じゃあな、総悟」
「・・・サヨナラ」
微笑を浮かべた姿。
あれから、総悟を見ていない。
*
総悟が、ミツバの療養に付き添い引っ越したと知ったのは大学の入学式の翌日だった。春休みの間は会いはしなかったがそれなりにメールもしていたから変わりないと思っていたのに、総悟は何一つ言うこと無く俺の前から姿を消しやがった。
「・・・っ」
ガクッ、と体が倒れかけて目が覚めた。夢の中だからこのままサヨナラしたらもう会えないというのがわかっていて、必死に手を伸ばすも意味はなく。
窓の外を見れば乗った時には明るく景色を照らしていた太陽も沈み、月が代わりに空に浮かんでいた。
あれから四年。ずっと考えていた。どういう意図で何も言わなかったのか会いに行ってもいいのか。大学の卒業式を終えてハッとした。今は、別れの言葉さえ言うことができないのだと。
四年も、傍に居なかった存在。だけどそれまでは呼吸をするのと同じぐらいに自然に、隣にいた存在。拒まれてもいいから会いたくて堪らなくなった。
会えない時間は愛を育むというが、恥ずかしいことにあてはまってしまった。
総悟は、いま駅の傍にアパートを借りて住んでいるらしい。ミツバは入院中で、総悟は一人。近藤さんには年賀状だけでなく季節毎の見舞いも出していたというのが腑に落ちないがそのお陰で住所が分かったのだから何も言うまい。
電車を降り、ボストンバック一個を片手に住所を頼りにアパートを探す、するとすぐに目当てのそれはあった。一階奥の、ドアの横に沖田と懐かしい字で書いてある。
もしも、これ以上ないというぐらい拒絶されたら。インターホンに指を当てたらそんなことが頭を掠めて、押しそびれる。
それでもいいと思い来たけれど、傷つきはするし望んでいない。
「なんて、うだうだ考えてもしかたねぇな」
折角来たのだから、と指に力を込めた。
ありふれた機械音の後、近づいてくる跫、そしてガチャとドアが開く。
「へい―――」
「総悟、」
俺の姿を認めて、驚きに目を見開いた総悟に、色んな感情が胸から押し寄せた。
やっぱ好きだという実感と、なんで何も言わなかったという憤慨、寂しさ、喜び。抱き締めたくなる衝動を拳に力を込めて堪え、総悟の出方を窺う。
帰れと言われたら帰る。その代わり多分また会いに来るが。
「ひじ、かたさん」
「俺だよ」
「・・・本物?」
困惑した表情で失礼なことを言いやがるから、思わず頭を叩いた。すると本物だと呟いたものだから余計。
どうぞ、言って総悟は部屋へ戻っていった。今度は俺が困惑する。拒まれるかもとは考えていたが上げてもらえるとは考えていなかった。一目会って話したら、ホテルに一泊して帰る予定だった。俺が総悟の家から出る頃まで、やっているホテルがあるといいけれど。
靴を脱いで廊下兼台所を通りすぎ居間へ上がる。小さなテーブルが部屋の真ん中に置かれていて、そのわきにベッドとテレビが置いてある。前の総悟の部屋と同じくらいの広さだ。綺麗な分、物が多くても今の方が広く感じる。
「布団の上に座りなせェ。座布団は俺のしかないんで。茶は今出しやすから」
「ありがとな」
干したばかりなのか日溜まりの匂いのするふかふかな布団に腰かける。申し訳ない気がするが総悟がいいと言っているんだから気兼ねする必要はないだろう。
茶を淹れている後ろ姿をじっと観察する。玄関でも思ったが、背が伸びたようだ。身長差が縮んでいた。それに、顔つきも少しだけ変わった。目の丸っこさも肌の肌理細かさも変わりないが、輪郭の丸みが若干鋭利になった。
「・・・で、なんでここに?」
茶を置きながら、当たり前の疑問を口にする総悟に苛立ちを覚える。分かれよ、ともどかしさを伴う苛立ちは独り善がりのものだとは知っていても、どうしよいもない、
「お前に会いに来たんだよ。知らねぇ内に引っ越してやがって」
「・・・言い出せなかったんでさァ。アンタが怒るの、分かってたけど」
「分かってたなら、」
言ってくれればよかったのに。
最後まで言う前に言葉が詰まる。全部言ったら泣きだしそうで、歯をくいしばる。
感動のあまり情緒不安定だ、まともな話はできそうにない。
「でも、俺はアンタにちゃんと言いやしたよ」
「なにを」
「・・・アンタを忘れることはねぇ、死んでもって」
真っ直ぐと目を見て言われた言葉を口の中で反駁する。何か思い出せそうで、喉元まででかかっているのに思い出せない。
悩む俺に総悟は溜め息を寄越し立ち上がる。そのまま離れていくのだろうと目で追いかけていたら何故か、総悟は近づいてきて。俺の横にしゃがんで、顎を掴む。
「折角言ってやったのに忘れたんですかィ?」
「仕方ねぇだろ、忘れたんだから」
顔が近いことに動揺する俺に気付いてか、総悟はますます身を乗り出してくる。距離を取ろうと上体を倒したら、総悟はそのまま俺の上に乗ってきて。
密着した部分がやけに熱い。心音が五月蝿い。思い出すことに集中しようと瞼を閉じる。
「じゃあ、思い出せないままでいいんで。何で俺に会いに来たのか教えてくだせェ」
「だから、おまえが何も言わなかったから、」
「なら怒りなせェよ。なんで怒ってないんで? なんでアンタ、そんなに泣きそうな顔してんの」
言われてハッと瞼を開けたら頬を液体が伝う感触がした。まさか、と手をあてるとそれは目から流れている。
なんで泣いているのか。それはもちろん嬉しいからだ。四年ぶりに会えた、拒絶されなかった、会話に隔たりが一切ない。小さなことばかりだけど、それが嬉しくて。
「・・・お前が、好きだからだよ」
全てはそこに繋がる。
総悟が愛しいから怒って、喜んで、泣く。馬鹿みたいだがそうとしか言えなくて、涙が流れるままに身を委ね瞼を閉ざす。
ぺろり。
今度は涙の筋を濡れたものが撫でて、ぎゅうと抱き締められた。閉ざしたばかりの瞼を開けば、総悟の舌が涙を掬っている。
じっと見ていたら、にこりと総悟が笑った。どきり、胸が鳴る。
「もしもアンタが俺に会いに来たら、二度と手放さないで居ようって決めてたんでさァ」
「・・・なんだよ、ソレ」
「察してくだせェ」
言葉と共に、唇が重ねられる。ちゅっ、と触れて離れ、もう一度触れたそれから舌が差し込まれ口の中をあやそうとする。
何も考えられない。何よりも、総悟が目の前にいてキスをしているという事実が素晴らしすぎて。
離れた唇にもっとしろと求めると、柔らかな笑みが降ってきた。それは、あの時と同じ表情だけど違う感情を孕んだもの。
花は咲いて、そして枯れる。けれど、全く同じではなくても同じ季節がやってくればまた花は開く。
何度も、何度でも。
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