梅々
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カテゴリー「日常」の記事一覧
25時
遅くなりました。
大丈夫鐘の音なんて聞こえていない。まだ14日の25時。
というわけでバレンタインネタ。私は褌ネタを書きたかったのですが、ツイッターお題三部作のとなりました。
これにてお題終了です。
「ひどく、されたい」「おかしくなりたい」ときてのみっつめ。土沖です。
猫の恋
雑踏の中にいたというのに。人混みの中、いやにしっかりと視線があって土方が驚いた表情をしたのが分かった。沖田ははっと息を飲む。
嫌な場面を見られてしまった。どう対処しようかと頭を働かせようとして、見られたことにそこまでの問題はないのではないかと思い至る。ただ、異性にチョコを渡されただけだ。それを受け取ったところを見られただけで、何も問題にはならない。相手が彼女だとは土方は知らないのだから。
まるで猫の恋のようだと沖田は思う。誰にも知られないようひっそりと隠れて恋情を育むのだ。それがカモフラージュの恋だとしても、違わない。
目の前で恥ずかしげにしているできたばかりの彼女に礼を言えば嬉しげに頬を桜色に染めた。その反応に対して、可愛いなとぼんやりした感想を抱く。土方も好みは違えどこのような女性が好きなのだろう。世間一般ではそうだ。そうでないと子孫が残せない。顔は女のようであるかもしれないが沖田は女々しい性格ではないと自負している。そんな沖田に、土方が親愛以外の情を抱くはずがない。一刻も早く、諦めてしまえばいいのだ。不毛である。
だから恋人を作ったのだ。
「行きやしょうか」
今日は非番で、これから沖田は生まれて初めて真っ当なデートをする。以前一度デートをしたことがあるがそれは万事屋の眼鏡の代理であり、好き勝手やってしまっていた。隣にいる彼女は沖田の性癖を既に知ってはいるが、もしこの前のようなことをして振られたら折角恋人を作ったのに意味がなくなる。普通がどんなものかぐらい知っている沖田は、目的地の甘味処まで車道側を歩き、エスコートをしてやろうと思っていた。
だが、数歩歩いたところで何者かに腕を掴まれそのまま、逆方向へ連れ去られた。殺意を感じず、寧ろ馴染んだ気配だからと気を抜いていたが馴染んだ気配を感じていたこと自体がおかしい。足を踏ん張り誰だと振り替えって、沖田は唖然とした。
「……土方さん」
雑踏に紛れたはずの男が目の前にいた。先程見開きながらも此方を見ていた眼差しは今は沖田の向こう、恐らく彼女がいるだろう位置で焦点を合わせている。
何故土方が、と呆けていれば再度強引に腕を引かれた。痕がつくのではないかというほど強かに掴まれ、振りほどけない。
「ちょっと、土方さん!」
「なんだ」
背を向け歩き出した土方は憮然と答えた。
あまりにもぶれがない返事にもしかして急な仕事が入ったのかといぶかしむ。休日であり私服であるとはいえ帯刀はしている。擦れ違う人たちから異常は感じられないから、急に討ち入りでも決まったのだろうか。そう考え、問えば。
「仕事入ったんですかィ?」
「あ? なんの話だ」
一蹴され沖田は眉を寄せる。では何故まるで補導されているかのように腕を掴まれているのか。
「俺今日非番なんですけど」
「知ってる」
「……もしかしてあの娘狙ってました?」
「今日初めて見たんだけど」
「じゃあなんなんですかィ。俺デート中なんですけど」
ぴたりと土方は歩みを止めた。言って胸が軋んだ沖田は、もらったチョコレートの袋を持ったまま胸を掻く。
振り返った土方はちらりと袋に目をやり、厳しい視線を沖田に向けた。まるで責められているような理不尽な視線に、負けるものかと沖田は、睨み返す。
不毛な想いを絶つためにもここで邪魔をされては困るのだ。
「あの娘が好きなのか」
「アンタに関係ありやすか」
「聞いてるのは俺だ」
「答える義務はねぇでしょう」
取り調べかと言いたくなるような問いの数々に沖田の方も腹立たしくなっていく。土方が何に怒っているのかさっぱりわからないのだ。
土方を視界に入れておくことすらいやになり目を反らせば土方の瞳と同じ色の空の下、垣根の向こうに白い梅の花が花開いているのが見えた。その木に止まり雀もちゅんちゅん鳴いている。
こんなにも長閑な春の日に、この男は何を怒っているのか。
「……おまえは女なんか興味ないんじゃなかったのか」
「え?」
「いままでそんな素振り見せなかったろう。俺に下らない悪戯ばかり仕掛けて」
まさか露見したのかと、土方に視線を戻せば土方も沖田が見ていたのと同じ方向を見つめていた。
そうして穏やかな口調にどこかいじけたような響きを孕ませ、土方は流れるように沖田に視線を戻した。
「お前はもっと外の世界を知った方がいい。だが、お前が俺だけを見てりゃあいいのにとも思う。……俺はお前をどうしたいんだろうな」
ふっと自嘲し沖田の頬に触れた土方の冷たい指先に、沖田はどくりと心臓が跳ねたのを感じた。
子ども扱いをしているのとは違う。土方の親愛を越えた愛情を感じたような気がして、沖田は思いきって唇を開いた。
全て、伝えてしまおう。
「もう、戻れない」
大丈夫鐘の音なんて聞こえていない。まだ14日の25時。
というわけでバレンタインネタ。私は褌ネタを書きたかったのですが、ツイッターお題三部作のとなりました。
これにてお題終了です。
「ひどく、されたい」「おかしくなりたい」ときてのみっつめ。土沖です。
猫の恋
雑踏の中にいたというのに。人混みの中、いやにしっかりと視線があって土方が驚いた表情をしたのが分かった。沖田ははっと息を飲む。
嫌な場面を見られてしまった。どう対処しようかと頭を働かせようとして、見られたことにそこまでの問題はないのではないかと思い至る。ただ、異性にチョコを渡されただけだ。それを受け取ったところを見られただけで、何も問題にはならない。相手が彼女だとは土方は知らないのだから。
まるで猫の恋のようだと沖田は思う。誰にも知られないようひっそりと隠れて恋情を育むのだ。それがカモフラージュの恋だとしても、違わない。
目の前で恥ずかしげにしているできたばかりの彼女に礼を言えば嬉しげに頬を桜色に染めた。その反応に対して、可愛いなとぼんやりした感想を抱く。土方も好みは違えどこのような女性が好きなのだろう。世間一般ではそうだ。そうでないと子孫が残せない。顔は女のようであるかもしれないが沖田は女々しい性格ではないと自負している。そんな沖田に、土方が親愛以外の情を抱くはずがない。一刻も早く、諦めてしまえばいいのだ。不毛である。
だから恋人を作ったのだ。
「行きやしょうか」
今日は非番で、これから沖田は生まれて初めて真っ当なデートをする。以前一度デートをしたことがあるがそれは万事屋の眼鏡の代理であり、好き勝手やってしまっていた。隣にいる彼女は沖田の性癖を既に知ってはいるが、もしこの前のようなことをして振られたら折角恋人を作ったのに意味がなくなる。普通がどんなものかぐらい知っている沖田は、目的地の甘味処まで車道側を歩き、エスコートをしてやろうと思っていた。
だが、数歩歩いたところで何者かに腕を掴まれそのまま、逆方向へ連れ去られた。殺意を感じず、寧ろ馴染んだ気配だからと気を抜いていたが馴染んだ気配を感じていたこと自体がおかしい。足を踏ん張り誰だと振り替えって、沖田は唖然とした。
「……土方さん」
雑踏に紛れたはずの男が目の前にいた。先程見開きながらも此方を見ていた眼差しは今は沖田の向こう、恐らく彼女がいるだろう位置で焦点を合わせている。
何故土方が、と呆けていれば再度強引に腕を引かれた。痕がつくのではないかというほど強かに掴まれ、振りほどけない。
「ちょっと、土方さん!」
「なんだ」
背を向け歩き出した土方は憮然と答えた。
あまりにもぶれがない返事にもしかして急な仕事が入ったのかといぶかしむ。休日であり私服であるとはいえ帯刀はしている。擦れ違う人たちから異常は感じられないから、急に討ち入りでも決まったのだろうか。そう考え、問えば。
「仕事入ったんですかィ?」
「あ? なんの話だ」
一蹴され沖田は眉を寄せる。では何故まるで補導されているかのように腕を掴まれているのか。
「俺今日非番なんですけど」
「知ってる」
「……もしかしてあの娘狙ってました?」
「今日初めて見たんだけど」
「じゃあなんなんですかィ。俺デート中なんですけど」
ぴたりと土方は歩みを止めた。言って胸が軋んだ沖田は、もらったチョコレートの袋を持ったまま胸を掻く。
振り返った土方はちらりと袋に目をやり、厳しい視線を沖田に向けた。まるで責められているような理不尽な視線に、負けるものかと沖田は、睨み返す。
不毛な想いを絶つためにもここで邪魔をされては困るのだ。
「あの娘が好きなのか」
「アンタに関係ありやすか」
「聞いてるのは俺だ」
「答える義務はねぇでしょう」
取り調べかと言いたくなるような問いの数々に沖田の方も腹立たしくなっていく。土方が何に怒っているのかさっぱりわからないのだ。
土方を視界に入れておくことすらいやになり目を反らせば土方の瞳と同じ色の空の下、垣根の向こうに白い梅の花が花開いているのが見えた。その木に止まり雀もちゅんちゅん鳴いている。
こんなにも長閑な春の日に、この男は何を怒っているのか。
「……おまえは女なんか興味ないんじゃなかったのか」
「え?」
「いままでそんな素振り見せなかったろう。俺に下らない悪戯ばかり仕掛けて」
まさか露見したのかと、土方に視線を戻せば土方も沖田が見ていたのと同じ方向を見つめていた。
そうして穏やかな口調にどこかいじけたような響きを孕ませ、土方は流れるように沖田に視線を戻した。
「お前はもっと外の世界を知った方がいい。だが、お前が俺だけを見てりゃあいいのにとも思う。……俺はお前をどうしたいんだろうな」
ふっと自嘲し沖田の頬に触れた土方の冷たい指先に、沖田はどくりと心臓が跳ねたのを感じた。
子ども扱いをしているのとは違う。土方の親愛を越えた愛情を感じたような気がして、沖田は思いきって唇を開いた。
全て、伝えてしまおう。
「もう、戻れない」
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是正
銀土沖の三角関係なんでこんな素敵なのだろうと無為に過ごした休日。
瀬戸の花嫁を見たいなぁ。
ではこの間のツイッターお題の続き。お題、実は三つ出たのです。
夢の中の土方はひたすらに沖田の臨むがまま尽くしていた。自分の恋情に見合った行為をした。
土方の節榑立ったあの長い指が、普段は優しさのみを纏わせ触れる指が、劣情を伴い沖田に触れた。身体中を撫で回され口付けられ、夢だと知っていても沖田はより深い繋がりを求めた。
「おかしくなりたい」
夢の中であろうと羞恥心は健在で、手の甲で顔を隠しつつ強請った沖田に土方はふと笑って、おかしくしてやるよ、としびれるような声色で囁いた。
いつだか、急用で土方に連絡をしたら情事の真っ最中だったらしくやたらと色気の滲む声で応答されたことがあった。きっとその時の記憶から再生されたのだろうと、夢を反復しつつ冷静に考察する。
その囁き通りに、土方に嫌と言うほど性器を、そしてその奥を愛撫され、繋がったときには訳がわからず気持ち良さに頭が朦朧とした。勿論、実際に経験したことがないから全て曖昧ではあったが。優しく名を呼ばれながら内側を攻められ沖田は精を放った。
その、最後だけは夢の外でも体験して。沖田にしては早起きをし、下着を洗い今に至る。
既におかしい自覚はあるのだ。男と性交する夢で夢精している。これ以上おかしくなんてなれない。
土方はあのようなこと、それこそいまの沖田より若い時分から何度も行っているのだろう。対する沖田は子ども扱いをされ、未だに夜の店には連れていかれない。
そんなだから、衆道に目覚めたのだ。外の世界が見られないから、近くの人間を対象としてしまったのではないか。または姉があんなにも完璧な人だったから理想があまりにも高く、それに当てはまる人がいないのかもしれない。何れも要因でありそうだが共に違う気もする。薄ら寒いがなるべくして土方に恋情を抱いたのかもしれない。
筆下ろしをしてみれば少し変わるのだろうか。同じ条件でも真っ当な山崎を思うとその可能性は微妙だが、契機は必要だろう。
おかしくなりたくなんて、ない。
きっと強請っても、現実の土方は矯正しようとする。正しい道へ。女を愛せと。
あの人にそんな世話を焼かれるぐらいなら自ら正したい。惨めになるだけだ。
でも、もしも夢の中のように受け止めてくれるのなら。あの煙草の匂いのする逞しい腕に包まれるなら。
「おかしくなりたい」
瀬戸の花嫁を見たいなぁ。
ではこの間のツイッターお題の続き。お題、実は三つ出たのです。
夢の中の土方はひたすらに沖田の臨むがまま尽くしていた。自分の恋情に見合った行為をした。
土方の節榑立ったあの長い指が、普段は優しさのみを纏わせ触れる指が、劣情を伴い沖田に触れた。身体中を撫で回され口付けられ、夢だと知っていても沖田はより深い繋がりを求めた。
「おかしくなりたい」
夢の中であろうと羞恥心は健在で、手の甲で顔を隠しつつ強請った沖田に土方はふと笑って、おかしくしてやるよ、としびれるような声色で囁いた。
いつだか、急用で土方に連絡をしたら情事の真っ最中だったらしくやたらと色気の滲む声で応答されたことがあった。きっとその時の記憶から再生されたのだろうと、夢を反復しつつ冷静に考察する。
その囁き通りに、土方に嫌と言うほど性器を、そしてその奥を愛撫され、繋がったときには訳がわからず気持ち良さに頭が朦朧とした。勿論、実際に経験したことがないから全て曖昧ではあったが。優しく名を呼ばれながら内側を攻められ沖田は精を放った。
その、最後だけは夢の外でも体験して。沖田にしては早起きをし、下着を洗い今に至る。
既におかしい自覚はあるのだ。男と性交する夢で夢精している。これ以上おかしくなんてなれない。
土方はあのようなこと、それこそいまの沖田より若い時分から何度も行っているのだろう。対する沖田は子ども扱いをされ、未だに夜の店には連れていかれない。
そんなだから、衆道に目覚めたのだ。外の世界が見られないから、近くの人間を対象としてしまったのではないか。または姉があんなにも完璧な人だったから理想があまりにも高く、それに当てはまる人がいないのかもしれない。何れも要因でありそうだが共に違う気もする。薄ら寒いがなるべくして土方に恋情を抱いたのかもしれない。
筆下ろしをしてみれば少し変わるのだろうか。同じ条件でも真っ当な山崎を思うとその可能性は微妙だが、契機は必要だろう。
おかしくなりたくなんて、ない。
きっと強請っても、現実の土方は矯正しようとする。正しい道へ。女を愛せと。
あの人にそんな世話を焼かれるぐらいなら自ら正したい。惨めになるだけだ。
でも、もしも夢の中のように受け止めてくれるのなら。あの煙草の匂いのする逞しい腕に包まれるなら。
「おかしくなりたい」