梅々
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夏休み最終日
ついったーでりついーといただいたので書いてたら日付越えました。昨日のうちに寝る予定だったけどとても楽しかったからいいんだ。原稿ちょっとやばいけど。
では、お題「両手を頭上で縛られてる沖田」で、最近マイブームな銀土沖トライアングルです。
自縄自縛
手を前後に動かしてみるがぎしぎし、手首を戒める縄に締め付けられるだけで拘束が解かれる様子はない。そんなことはもう何度も繰り返しているから分かりきっているんだけど、そろそろ腕が疲れてきた。
梁にかけた縄に手首をくくりつけられている。踵が僅かに浮く高さなのが、じわじわと手首を苛む。
何度も使ったことがある拷問部屋。だけどそれが俺に使われるとは思っていなかった。副長のくせに公私混同するなんて。取り調べに使用中とかだったらこんな目には遇わなかったのに。
「……俺が何をしたってぇんでィ」
ぼそりと呟いても誰にも拾われない。当然だ、誰もいないんだから。俺を縛ってすぐ土方さんはここを出て行った。こんな時間だ、もしかしたら女でも買いに行ったのかもしれない。反省するまで仕置きだとか思いながら。反省する以前に何をしたかすら分からないんだけど。
うとうととすれば、頭が垂れる度に手首に負担がかかり一向に眠れない。体は疲労を訴えているが、こんなでは一睡もできない。
再び船を漕ぎ出した時、ギィィ、と重い扉が開く音を聞いた。顔をあげれば、扉を閉める後ろ姿が目にはいった。振り返った土方さんは冷めた目を向けながら俺に近づく。
案外早く寝れるかも、なんて能天気なことを考えた。
「土方さん」
「なんだ?」
「俺なんでこうされてるか、わかんねぇんだけど」
「直前の行動を思い出しゃ分かるだろうよ」
直前の行動。帰った早々、出迎えた土方さんに腹を殴られた、ことではないだろう。それならば。
「旦那といやした」
「それで?」
「酒飲んだ」
「それだけか?」
「ホテル行って旦那とヤりやした」
「それでもわかんねぇか」
「さぁ」
わかんねぇや。
言って笑えばふっと笑いながら土方さんは距離をつめた。息がかかる距離。ゆっくりと腕が伸びてくる。
がっ、と前髪を掴まれた。
「っ!」
「なにあの野郎に掘られてんだよ。叩き斬んぞ」
「っは、関白宣言ですかィ? 亭主じゃねぇのに」
痛みに閉じた目を開け土方さんを睨みながら言えば、蔑むような目をしたまま笑みを深くした。ぞくりと鳥肌が立つ。なんでこんなに興奮してるんだろう。
浮気を咎められているような錯覚のせいか。旦那に嫉妬しているように思える。都合のいい妄想だけど。
「アイツには近づくなっつってあんだろ」
「守る義理はありやせんがね」
「お前は俺のもんだろ」
「ただのセフレだっつったのアンタじゃん」
告白して、食べられて。初めて二人で迎えた朝、尻の痛みとやっと土方さんを手に入れた喜びを感じていた俺に、勘違いすんなと言ったのはどこのどいつだ。そのくせ最低でも週に一回は手を出してくるし、普通に女も抱いているし。
俺の告白を足蹴にして、体だけ奪った最低な野郎。
「俺を好きだと、言っただろ」
「今もそうだとは言ってやせんが」
今も好きだけど。あの時の、告白する前までのものとは形を変えた。期待をすることが減った、高望みもしくなった。体だけでも可愛がられているならそれでいいかと、思うようになった。嫌いになれないのが馬鹿みたいだけど。
汚いものを見るような顔をされている。その目に映る自分が無表情で笑いたくなった。
こんなに胸は痛いのに。面にも声にも出やしない。
「俺だけじゃ足らねぇか」
「当たり前でさ。性欲しか満たさねぇじゃんアンタ。体も心も空っぽでさ。そりゃ玄人の相手ばかりにもなりやすね」
勘違いするなと言われたから、俺はいつ終わると知れない関係と割りきった。飽きたら捨てられるのだろう。なかったことになるのだろう。告白を蒸し返せば、軽蔑されるかもしれない。なのになんでアンタが蒸し返しているんだ。そんなに嫌か、旦那と共有するのが。
そこまで土方さんに意識される旦那が、羨ましい。俺はただのセフレで、ただの仲間で、かけがえのないものにはなれないし特別なものにもなれないのに、土方さんの中では旦那は特別だ。
そっと、まぶたを閉じた。できることなら俯きたい、鼻の奥がつんとする。
「……もう終わりにしやすか、土方さん」
「なんでだ」
そう問う声が、さっきまでの冷たく張り詰めたものとは変わって、しかも前髪を掴んでいた手も離されて、視線を土方さんに戻す。
僅かに、困ったように眉間に皺が寄っていた。
「旦那とヤった体なんて、抱きたくねぇでしょ」
首を傾げながら問えば土方さんは目を見張る。
意外な反応に此方までびっくりした。
旦那に気が向いたらまたしようよと言われて、俺はそれに頷いた。向こうにその気がないのならそれまでだけど、俺は旦那とこれきりにするつもりはない。
土方さんはヤってる最中詰るか仕事の話しかしないけれど旦那は違った。それなりに甘いことも言えば、気持ちいいと、伝えてくれた。流されてしまえるような、そんな雰囲気だった。一方的じゃない、与えあうような行為だった。
だから。欲を発散するだけの虚しい行為なんかよりも、旦那との疑似恋愛のほうが断然いい。どちらも虚しいものなのは分かってるけどしょうがない。欲しいものは手に入らないんだから。
「アンタとしても気持ち良くなかったけど、旦那としたら気持ち良かったんでさァ」
一緒にイこうか、と指と指とを絡められて心臓がどきどきした。頭が真っ白になるくらい、身体中痺れたようになってわけがわからなくなった。痛みではなく快感で意識をなくしたのは初めてだった。恐らくほんの数時間前。思い返すだけでも、頬が火照る。
行為には慣れていたし、外だってしたこともある。色んな体位でもしたことあったけれど、心が伴ってなきゃやっぱ駄目なんだと思い知らされた。性欲処理じゃなくて、俺を見てくれなくては。
二番目に好きなやつとくっついたほうが幸せになれるんだよと、旦那はにやにやしながら言っていた。確かに、幸せかもしれない。
「……ざけんな。あんな野郎に、お前をやるか」
「土方さん、」
「あんなヤツより、気持ち良くしてやるよ総悟」
愛してる、なんて心にもないことを耳元で囁かれて、胸がずきりと軋んだ。
では、お題「両手を頭上で縛られてる沖田」で、最近マイブームな銀土沖トライアングルです。
自縄自縛
手を前後に動かしてみるがぎしぎし、手首を戒める縄に締め付けられるだけで拘束が解かれる様子はない。そんなことはもう何度も繰り返しているから分かりきっているんだけど、そろそろ腕が疲れてきた。
梁にかけた縄に手首をくくりつけられている。踵が僅かに浮く高さなのが、じわじわと手首を苛む。
何度も使ったことがある拷問部屋。だけどそれが俺に使われるとは思っていなかった。副長のくせに公私混同するなんて。取り調べに使用中とかだったらこんな目には遇わなかったのに。
「……俺が何をしたってぇんでィ」
ぼそりと呟いても誰にも拾われない。当然だ、誰もいないんだから。俺を縛ってすぐ土方さんはここを出て行った。こんな時間だ、もしかしたら女でも買いに行ったのかもしれない。反省するまで仕置きだとか思いながら。反省する以前に何をしたかすら分からないんだけど。
うとうととすれば、頭が垂れる度に手首に負担がかかり一向に眠れない。体は疲労を訴えているが、こんなでは一睡もできない。
再び船を漕ぎ出した時、ギィィ、と重い扉が開く音を聞いた。顔をあげれば、扉を閉める後ろ姿が目にはいった。振り返った土方さんは冷めた目を向けながら俺に近づく。
案外早く寝れるかも、なんて能天気なことを考えた。
「土方さん」
「なんだ?」
「俺なんでこうされてるか、わかんねぇんだけど」
「直前の行動を思い出しゃ分かるだろうよ」
直前の行動。帰った早々、出迎えた土方さんに腹を殴られた、ことではないだろう。それならば。
「旦那といやした」
「それで?」
「酒飲んだ」
「それだけか?」
「ホテル行って旦那とヤりやした」
「それでもわかんねぇか」
「さぁ」
わかんねぇや。
言って笑えばふっと笑いながら土方さんは距離をつめた。息がかかる距離。ゆっくりと腕が伸びてくる。
がっ、と前髪を掴まれた。
「っ!」
「なにあの野郎に掘られてんだよ。叩き斬んぞ」
「っは、関白宣言ですかィ? 亭主じゃねぇのに」
痛みに閉じた目を開け土方さんを睨みながら言えば、蔑むような目をしたまま笑みを深くした。ぞくりと鳥肌が立つ。なんでこんなに興奮してるんだろう。
浮気を咎められているような錯覚のせいか。旦那に嫉妬しているように思える。都合のいい妄想だけど。
「アイツには近づくなっつってあんだろ」
「守る義理はありやせんがね」
「お前は俺のもんだろ」
「ただのセフレだっつったのアンタじゃん」
告白して、食べられて。初めて二人で迎えた朝、尻の痛みとやっと土方さんを手に入れた喜びを感じていた俺に、勘違いすんなと言ったのはどこのどいつだ。そのくせ最低でも週に一回は手を出してくるし、普通に女も抱いているし。
俺の告白を足蹴にして、体だけ奪った最低な野郎。
「俺を好きだと、言っただろ」
「今もそうだとは言ってやせんが」
今も好きだけど。あの時の、告白する前までのものとは形を変えた。期待をすることが減った、高望みもしくなった。体だけでも可愛がられているならそれでいいかと、思うようになった。嫌いになれないのが馬鹿みたいだけど。
汚いものを見るような顔をされている。その目に映る自分が無表情で笑いたくなった。
こんなに胸は痛いのに。面にも声にも出やしない。
「俺だけじゃ足らねぇか」
「当たり前でさ。性欲しか満たさねぇじゃんアンタ。体も心も空っぽでさ。そりゃ玄人の相手ばかりにもなりやすね」
勘違いするなと言われたから、俺はいつ終わると知れない関係と割りきった。飽きたら捨てられるのだろう。なかったことになるのだろう。告白を蒸し返せば、軽蔑されるかもしれない。なのになんでアンタが蒸し返しているんだ。そんなに嫌か、旦那と共有するのが。
そこまで土方さんに意識される旦那が、羨ましい。俺はただのセフレで、ただの仲間で、かけがえのないものにはなれないし特別なものにもなれないのに、土方さんの中では旦那は特別だ。
そっと、まぶたを閉じた。できることなら俯きたい、鼻の奥がつんとする。
「……もう終わりにしやすか、土方さん」
「なんでだ」
そう問う声が、さっきまでの冷たく張り詰めたものとは変わって、しかも前髪を掴んでいた手も離されて、視線を土方さんに戻す。
僅かに、困ったように眉間に皺が寄っていた。
「旦那とヤった体なんて、抱きたくねぇでしょ」
首を傾げながら問えば土方さんは目を見張る。
意外な反応に此方までびっくりした。
旦那に気が向いたらまたしようよと言われて、俺はそれに頷いた。向こうにその気がないのならそれまでだけど、俺は旦那とこれきりにするつもりはない。
土方さんはヤってる最中詰るか仕事の話しかしないけれど旦那は違った。それなりに甘いことも言えば、気持ちいいと、伝えてくれた。流されてしまえるような、そんな雰囲気だった。一方的じゃない、与えあうような行為だった。
だから。欲を発散するだけの虚しい行為なんかよりも、旦那との疑似恋愛のほうが断然いい。どちらも虚しいものなのは分かってるけどしょうがない。欲しいものは手に入らないんだから。
「アンタとしても気持ち良くなかったけど、旦那としたら気持ち良かったんでさァ」
一緒にイこうか、と指と指とを絡められて心臓がどきどきした。頭が真っ白になるくらい、身体中痺れたようになってわけがわからなくなった。痛みではなく快感で意識をなくしたのは初めてだった。恐らくほんの数時間前。思い返すだけでも、頬が火照る。
行為には慣れていたし、外だってしたこともある。色んな体位でもしたことあったけれど、心が伴ってなきゃやっぱ駄目なんだと思い知らされた。性欲処理じゃなくて、俺を見てくれなくては。
二番目に好きなやつとくっついたほうが幸せになれるんだよと、旦那はにやにやしながら言っていた。確かに、幸せかもしれない。
「……ざけんな。あんな野郎に、お前をやるか」
「土方さん、」
「あんなヤツより、気持ち良くしてやるよ総悟」
愛してる、なんて心にもないことを耳元で囁かれて、胸がずきりと軋んだ。
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