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梅々

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夏の終わり

夏休み終了のお知らせですね。私はまだまだあります!無駄に過ごしたくはない。

明明後日から合宿なので色々やらないとですね。





それでは久々の更新ですー。
3Z土沖。




















海の月





「じゃあ、お留守番お願いね、そうちゃん」
「はい、いってらっしゃいお姉ちゃん」
 少し心配そうな顔をする姉上に大丈夫ですと手を振れば、にこりと笑い返しながら手を振ってくれる。これから三日間も、姉上の顔を見られないなんて少し寂しいけれど、高校生にもなってそんなことは言えない。
 姉上は今日から、二泊三日の温泉旅行に行く。姉上にとっては久々の旅行。だから、心配は一切かけたくないのだけれど。
ちらり、横に並び同じように自分の姉を見送る男を見遣る。土方さんのお姉さんと姉上が旅行へ行き、土方さんの両親は渡欧している。二人で仲良く留守番してね、との言葉を、大人しく守らなくてもいいのだが。
「ほら、来いよ総悟」
「へいへい」
どう足掻いてもカレンダーの日付は変わらないし、過去は換わらない。土方さんの部屋の時計表示も俺の携帯の日付も一緒で、夏休み終了の二日前。餓鬼ではないから全く手付かずというわけではないけど、半分ぐらいは残っている。それを、一人でやりきるなんて考えられない。無理。だから手伝ってもらわないと。
出してもらったオレンジジュースをぐびぐび飲んでから、土方さんのベッドにダイブする。二人きりであるのだと、意識すると宿題どころじゃなくなるから意識から弾き出したくなるのだけれど。二人しかいない部屋を見ても意識しちまうし、こう布団に顔を埋めても土方さんの匂いがするばかりだし、宿題をやっとけばよかったと初めて後悔した。
「やんぞ」
「へーい」
のそっと顔をあげ振り返る。ちらり、土方さんが俺を見ていていたたまれなくなった。
先週、補講があった。俺みたいな馬鹿も土方さんみたいながちがちの進学組も全員参加で、家も隣だし迎えに来るものだから土方さんと一緒に行っていた。その、最終日の帰り道、いつものように駄菓子屋に寄ってアイスを食っていたら唐突に、告白をされた。
陽炎が揺らいで蝉が鳴き、近所の家からタモさんの声が聞こえる昼日中。えっと土方さんの方を見るとアイスが手の甲に垂れた。あっ、と勿体なくてそれを舐めとる。それから顔を土方さんに戻すと、好きなんだ、ともう一度言われて、間を置いてティッシュを手渡された。受け取って手を拭いた頃には土方さんはいつも通りで、それからは俺もいつも通りに接したけれど。
あれから二人っきりになったことはなくて、意識なんてあんまりしなかったけれど。
「国語は全部終わってんのな」
「あぁ、補講の時に銀八先生が答えくれて」
「アイツそれでいいのかよ」
はぁ、と溜め息をつきつつ日本史の宿題を捲る土方さんを横目に、少し残っていた数学の課題を進める。理数系はいいけど文系は滅亡的だ。物理と数学だけなら、土方さんにも勝てるのに。あと英語も、実技なら断然土方さんよか上だ。
集中してやればあっという間に終わって、あとは日本史だけ。カチカチ、シャーペンの芯を出すのを見て、振るシャーペンにすりゃいいのにと思っていれば土方さんが顔を上げた。
まじまじと見てくるものだから、首を傾げて何でィと問えば、ふいと反らされる。
「日本史、分かりやすくヒント書いてやったから解いてみろ」
「そこまでやんなら書いてくれりゃいいのに」
「おまえのためになんねぇだろ」
ぺしっと頭を叩かれる。ひでぇなぁと口を尖らせると、一瞬、土方さんの目が細められた。
けれどすぐに手元に視線をやるものだから、その意図も組めないで。
結局二人で勉強をして、夕方には焼きそばを作って、嫌がる土方さんなんか放ってホラー番組をつけた。
「怖かったらしがみついてもいいですぜ」
「言ったな」
 手持ち無沙汰でクッションを足の上に抱きつつ、始まった特番をじーっと見る。隣に座る土方さんは参考書を開きながらも、ちらっちらっとテレビを見ていて、怖いんなら自分の部屋に戻っていればいいのにと思う。でもこの人の反応を見るのも面白いんだよなぁと、隣でびくびくしているのを視界に入れていれば、テレビでやっている視聴者からの投稿だとか言う映像に、幽霊らしき恨めしげな人の顔が映り込んだ。
「ぅわっ!」
「ひゃっ!」
 隣から上がった悲鳴にびくり、跳ねた体をぎゅうっと抱き締められて、此方も声を上げる。
ぎゅうと強く抱き締められて、頭が混乱する。ただでさえ考えるのなんて苦手なのに、よりいっぱいいっぱいになる。しがみつけばいいって言ったけど。
「ちょっと、何やってんでさ!いい加減離しなせェ!」
「おまえがしがみつけって言ったんだろ」
「怖いならでさァ」
「怖いからしがみついたんだって」
相も変わらぬ力で抱き締められすんと呼吸をすれば土方さんの煙草の混じった優しい匂いがした。しかも温もりまでほぼ直に感じてしまえば頭がこんがらがって、どうしたらいいのか分からなくなる。怖がりなの認めるんだと、思いながら行き場に悩んでさ迷わせていた手で、土方さんのTシャツを掴む。
「総悟」
「へい」
「一週間経ったんだけど。返事はくれねぇの」
俺の肩に額を当てて、土方さんはすがるように言った。一週間なんにも言ってこないから、返事なんて期待してなかったのかと思った、なんて言い訳か。聞かれないから、無視していた。なかったことにしようとしていただけ。我ながら酷いことをする。
「返事、ほしいんで?」
「当然だろ」
顔を上げた土方さんが、至近距離で俺を見た。鼻と鼻がキスをする。真っ直ぐな青みがかった瞳に、俺が映っている。
その場で返事を求められていたら、なかったことにしようと茶化していただろう。一週間、何も言ってこないから悶々して二人きりなのを意識して、それでもどうとも思っていないとは流石に言えない。
でも素直に返事をしてやるなんて癪だ。
「アンタが首相になったら考えてやりまさ」
「おい」
「……嫁にきてくだせェ。それなら、いい」
「反対だろ馬鹿。おまえが来いよ」
聞いたことないほど、優しく甘い声で告げられて胸がむず痒くなる。嬉しそうに目を細め笑んで、俺の頬を撫でてくる。この顔を、土方さんの歴代の彼女が見てきたのかと思うと少し、向かっ腹が立つけれど。
今から俺だけのものになる。
「あーあ、土方さんの所為でテレビ全然見らんねぇ」
「わるかったな。てか今言うこと、」
「だから、今からちゃんと見やしょう。アンタが怖いって言うんなら、一緒に寝たげまさァ」
 Tシャツを掴んだままだった手を土方さんの背に回す。にっと笑ってやれば、照れたようにそっぽを向いておう、と小さく返された。
「ねぇ土方さん」
「ん?」
くっついたまま、嫌いだろうにテレビを真面目に見始めた土方さんに声をかける。止めればいいのに、どこに霊が写っているか真剣に探しているらしい。此方を向いてくれない。
それがかなり不満で、ちょっとぐらい甘やかしてやってもいいかと、此方を向かない土方さんの耳元に唇を寄せる。
「溺れるように、愛してくだせェ」
「っ!」
言えばみるみる顔が真っ赤に染まって、土方さんが両手で顔を覆った。これはかわいいかもしれない、ほくそ笑んでいたら不意打ちのキスをくらった。

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