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梅々

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難しい

いつも通り、は難しいですね。
明るくいつも通りに振る舞うことが、支えになる場合と不快にさせてしまう場合がある。
私は特に被害はなかった。親戚も無事だった。被害はニュースやツイッターから知る。
だから、日常はあまり変わりないのです。
でも、親戚や自分が被害に遭われた方には、日常は程遠いものです。
あったものが一瞬で無くなって、不安ばかりで。
そんな方が、いつも通りの馬鹿なことを不謹慎だと感じるのは当然です。
なんで、って思う。
腹痛でトイレに閉じ籠ってるときにリビングから笑い声が響いて、なんで笑ってるのと思ってしまったことがあります。
レベルが違うけどこういう気持ちなんじゃないかな。
勿論、想像にすぎません。
一刻も早く、ったく、しょうがないなと思えるぐらいに回復してほしいです。




それでは、キリバンリクエスト小説です。
こんなときに、と思われると思いますが、少しでも元気な方が増えますよう、また、自分の精神安定のために書きました。
批判は胸の中に留めていただければ幸いです。

空音様、リクエストありがとうございました!
















穏やかな日々を大切にして





だって愛してる





 いつも不遜としていて口うるさくて、正直面倒くさいやつが、朝一で電話をかけてきた。これはいつものことだ。頼んでないのにモーニングコールがかかってきて、支度を終え外に出るとチャリンコ乗ったそいつと目が合う。後ろに飛び乗り背をポンと叩けばそのチャリンコは発車して学校まで勝手に行ってくれる。なんて素敵な、幼馴染み。
 だが今日は、事情が違うらしい。

「風邪引いたから。・・・おまえ一人で学校行けるよな」

「そんぐらいできまさァ。馬鹿にすんな」

「そ。んじゃあ休むって言っといてくれ」

「あーい」

 パタン、と携帯を閉じて枕に顔を擦り付ける。学校ぐらい一人で行ける。けど正直言うと面倒くさいし、何より土方がいないと詰まらない。山崎をからかっても、手応えがないのだ。
 どうしようかな、休もうか。悩んでいたらピンと閃いた。からかいに行けばいいんだ、土方さんを。そうと決まれば動きは早くて、いつも通りご飯を食べ、制服に着替えて。学校行ってきます、の変わりに土方さん家行ってきますと姉上に告げる。

「行ってらっしゃい、そうちゃん。学校には連絡しないで大丈夫?」

「近藤さんに頼むんで大丈夫です。行ってきまーす!」

 にこやかに手を振る姉上にぶんぶんと手を振り返しながら、外へ出た。
 俺が風邪をひくことは、最近は少ないが一年に一回ぐらいはある。小さな頃はもっと多くて、その度にあの人は、俺の枕元にいた。昔は傍にいるだけだったけれど、最近は姉上には俺が責任とって面倒見るからと言って、土方さんが俺の面倒を見るようになった。学校をわざわざ休んでまで。甲斐甲斐しさは姉上に負けず劣らずで、いつもより優しくなったりするものだから。
 風邪をひくのが、嫌じゃなかったりする。
 徒歩三分で着く土方さん家。ご両親はこの時間働きに出ているだろう。ガチャ、と玄関のノブを回すも開かない。几帳面な家系だからなぁと思いながらポケットから取り出すのはこの家の鍵だ。俺のキーホルダーには自分家のと土方さん家のがついている。そういやこのキーホルダー、土方さんに貰ったものだと思いながら鍵を開け、お邪魔しますと呟きながら中に入る。一階は真っ暗だから、土方さんは自室にいるんだろう。
 リビングに行き戸棚を勝手に開ける。体温計だとかマスクだとか入ったそこに、氷枕が入ったままなのを見てとりあえず出す。声の調子は中々だるそうだった。熱も高いだろう。ならば氷枕の出番のはず。と氷を突っ込み、水を入れて準備完了。グラスを一個手に取ってから二階の土方さんの部屋へ。
 ガチャ、ドアを開けたら小さな悲鳴が聞こえた。

「びびりやしたね」

「そ、うご・・・?」

 珍しく目をまんまるくしている。図太くて剣道部鬼の副主将とか言われてるのに案外可愛い顔をする。折角だから写真撮れば良かった、残念。
 持ってきたグラスをテーブルに置いて荷物も床に置く。氷枕だけを持って近づくと、ポカンとしたまま土方さんが俺を見上げた。冷えピタを貼っているからか、何だかちょっと若返ったように見える。

「・・・おまえ、学校は?」

「休みやした。大丈夫、近藤さんにメールしやしたし」

「・・・で、何しに来たんだよ」

「からかいに」

 言いながらしゃがみこんで枕を取り替える。代わりに持った枕は温くて、土方さんの匂いがする。ってなんだか変態くさい。
 このまま持ってたらよかぬことを言いそうな予感がして、日の当たる部屋の隅にポイと投げる。次いで、途中で買ってきたスポーツドリンクをグラスに入れて一気飲みする。
 そこまで口を開けて見ていた土方さんが言葉を発した。

「・・・総悟」

「へい?」

「ちょっと、こっち」

「ん?」

 手招きされるがままに近寄る。そうしたら。手首を掴まれたと思ったらそのままグイと引っ張られた。

「おぉ?」

 ユラリ、体が傾いでストンと座る。布団の上、しかも土方さんの膝の上だ。
 なんだ、と顔を向けたら、息がかかるほど傍に土方さんの顔があった。それが、すごく真面目な顔をしている。風邪の所為で頬が赤い。
 文句を言おうと思ったけれど、何か言いたげな土方さんを見たら言えなくて言葉を待つ。だけど、土方さんは何にも言わないまま。

「あ、風邪引いて寂しいんですかィ? 構ってくれる彼女もいないみたいだし?」

「・・・ばーか。んなもんいらないっつうの」

 熱いのか、寝間着の前のボタンを二三外している。そこから覗く胸板は俺のとは比べ物にならないほどに厚く確りしていて、無性に噛みつきたくなったから目を反らす。
 いやそれよりも、熱いならなんでこんなに密着しているんだ。あれか、俺に風邪を移すためか。

「マスクしなせェ」

「なんで」

「俺に移るでしょうが」

「・・・期待してんなら、移してやろうか」

「バカじゃねぇの」

 立ち上がろうとしたら、腰に腕がまわりやんわりと拘束された。なんでこんなことしてるんだこの人、熱でとうとう頭もイカれたか。じっと顔を見つめていると、ふいに土方さんが顔を背けた。そのまま、咳き込む。
 そういや病人なんだから。寝てなきゃ駄目だろ。

「寝なせェ」

「コホッ・・・大丈夫だっての」

「寝ろっつってんでさ」

「だぁから、大丈夫だっての」

 赤い顔してよく言う。別に看病しに来たわけじゃないけれど、反抗されるとムキになる。言って寝ないなら力ずくだ。
 目の前の体をえいと押す。油断していたのか、それでも普段はあまり揺らがないのに容易に倒れた。ざまぁみろ、思うが腰を抱かれたままだから一緒に倒れてしまう。両腕を突っ張って上体は起こしてみるけれど、腰から下はあんまり自由がきかない。
 なんだこの体勢。首でも締めればいいのか。

「・・・気持ちいい」

「枕ですかィ? 礼は三倍でいいですぜ」

「じゃあ、」

「?」

 顔を近づけろ、と顎で示された。徐々に腕を曲げて、顔を近づける。ないしょ話か、うすら寒い。
 だけど違った。腰にあった手が背に、後ろ頭に移動して、一気に引き寄せられた。吃驚して目を見開く、睫毛が触れ合うぐらい傍にある土方さんの顔、塞がれた唇。
 ちょっとまて、瞬きしたら睫毛が触れて案外土方さんのも長いなと余所事。ないしょ話よりもうすら寒い、だって俺たち、キスしてる。
 なんで?

「んん!!」

「口開け」

「は? ちょっ、あ、んっ!」

 ぬめり、入ってきたそれがあちこち俺の口の中をなめまわす。熱の所為か、土方さんのべろはとても熱い。
 さくらんぼの茎を結べる人はキスがうまいって言う話を聞いて、近藤さんが頑張ってたのを思い出した。あんとき、近藤さんは知らないはずだけれど土方さんはあっという間に茎を結んでいた。
 これうまいのか。キスなんて知らないから、基準も分からない。分からないけれど、胸が騒いで、頭がぼーっとする。

「ん、んぅ、っは・・・ん・・・」

「・・・三倍返しってこんぐらいか?」

「な、にを・・・」

「愛情?」

 シラッと言われた言葉に絶句した。熱が脳を蝕んでいる。保育園から一緒だったけれど、こんな人間だったろうか。鳥肌が立ったのは確か、なのに、頬っぺたは嫌に熱い。こんな短時間で、もう移った?
 唇は離れても背中の手はまだ離れていない。体を起こせないままで、マスクもしてないこの近距離、どれくらいの風邪菌を吸い込んでいるんだろう、俺。
 でも、なんとなく覚えている。小さい頃、風邪を引く度、この人は俺を離さなかった。大体は俺が移していたから、ほんの少しの罪悪感から断ることも逃げることもできなかった。
 今回は、なんで逃げられないんだ。罪悪感なんてないのに。力が強いからか。
 唇を尖らせてみたら、チュッとまたもや奪われた。

「・・・アンタ本当に土方さん?」

「当たり前だろ」

「・・・女にモテんのは知ってやしたが、男も許容範囲でしたか」

 言ったらムッとした顔をした。どうやら違うらしい。しかも表情を変えただけじゃなく、背にあった手がさわさわと体を撫でた。
 俺は許容範囲なのか。そんな目で見られてたのか。ドン引きしながらも、こそばゆさに身を捩る。脇腹を撫でられて、小さく声が漏れた。
 冷えピタ貼った土方さんが、フッと笑う。

「許容範囲は、お前だけなんだけど」

「そんなばなな」

 からかったら気に障ったらしく今度は尻を揉まれた。思わず息を飲んで、扱いにカッとなって首を絞めた。
 苦しげな顔にときめいた。だからもっと、締めようとしたらやらしい手付きで尻を揉まれて、ゾクゾク、背筋を何かが駆けた。と同時に腕から力が抜ける。

「ふ、ぅん・・・っ」

「・・・あー眠い」

 言うなり瞼を瞑った土方さんはすやすや、寝息を立て始めた。じゃあ寝惚けていたのかもしれない。
 寝惚けていたならしょうがない。
 窓から差し込む日差しが暖かくて瞼を閉じる。あまりにも心地好くて、気付いたら一緒に眠っていた。

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