梅々
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西に東、南に北
読み終えたけど今回はモチーフが好きでした。否、今回も、かな。桜に黒い洋館―――――。
予想通りな犯人でしたが悲しいかな。途中で揺らいだ。
それでは百人一首で土←沖。
予想通りな犯人でしたが悲しいかな。途中で揺らいだ。
それでは百人一首で土←沖。
だって。
敗けを認めるなんて悲しいじゃないか。
誰かの心
幸せそうな姉上の顔。
見る度俺も幸せになる。
そして幸せを感じる度に俺は、疚しい気持ちに苛なまれる。
小さな頃から俺を女手一つで育ててくれた愛しい姉上。だから、姉上の幸せを誰よりも望んでいた。今も、望んでいるけれど。
愛しい人と好きな人が結ばれるのはなんて辛いのだろう。
俺は、そんなこと知りたくなかった。いずれ知るだろうことは分かっていたが。
暗い夜の街に一筋の光が射す。暖かい橙色のそれは段々と太くなる。
「あれ、沖田じゃねぇか。どうしたよ?」
「暇だったから遊びに来たんでィ」
深く詮索せずに、まぁ上がれよと言ってくれた優しい級友の後に続いて上がり込む。
過去一度、家の前までは来たことがあった。あの時は俺の方の時間が合わなくて上がれなかった、確か。
暖房のきいたリビングに入るともう一人のクラスメートと教師二人。・・・テーブルの上には一升瓶とビールの缶がごろごろと。
これバレたら流石に不味いだろうに。立ち尽くしていたら鼻がじんじんと、温度差に疼いた。
「あっれー沖田クンじゃん。誰か呼んでくれたわけ? もしかして高杉? 以心伝心しちまったわけ?」
「金時はドリーマーじゃき。おんしはおっきな男になるぜよ」
「銀八だっての」
「以心伝心? そんなわけなかろう。なぁ、高杉」
「ったりめーだろ。・・・ほら、此処座れよ沖田」
席に着いた高杉が自分の隣のスペースをポンポンと叩く。他にテーブルを囲めそうな場所は無くて素直にそこに座るとえ~、と正面からブーイングが上がった。いい年して日頃吹聴している分あって本当に、子どもっぽい。高杉や桂の方が精神的には上じゃないだろうか。桂は変だけど。
「で? 何かあったのだろう?」
「・・・」
何か、か。
あったようななかったような。だって、前々から分かっていたことだから。
“十四郎さんが卒業したら、結婚しようと思うの”
いつか、いつか言われると思っていた。邪ながら免罪符を得ていた俺の気持ちは、免罪符を失ってイラナイモノになってしまった。
祝福しまさァ、と笑顔で言えたのは本当にそう思っているから。だけど、一割にも満たない嫉妬が、あの場にいることに堪えられなかった。
「・・・フラれたか?」
「多串君に? うわ何アイツ。今度のテスト零点にしてやろっかな」
「いや、別にフラれたわけじゃねぇでさァ・・・こうなるって元から分かってやしたからねィ」
桂が俺に渡してくれた缶ビールを一口飲む。
喉を潤した冷たいそれはスーッと体内の熱を奪いながら落ちていく。
何よりも今は、こんな気持ちを抱いてしまった自分が哀れで。嫌いだと幾度も言えばその内本当に嫌いになれると馬鹿みたく信じて、その反面無意味なのも分かっていた。
何だって、分かっていたのだけれど。
「卒業したら結婚するそうでさァ」
「ひゅ~。よぉやるじゃき」
「そこ口笛吹くとこか? ・・・それで来たんだな」
「っていうか探してたりしねぇ? 大丈夫なの?」
「一応、友達ン所に行くって言っときやしたから、大丈夫でさァ」
春が来たら。
俺はあの家で邪魔者になってしまう。姉上も土方さんもそんなことないって言うだろうけど、それでも。
逃げてるだけだ。正面から受け止めようとしていない。自分から行動を起こさないで、嫌なことからは逃げるように目を背けて。
「ほら、じゃんじゃん飲め」
「そうだ。今日はパーッとな」
「なんなら慰めてやろうか?」
「ッゲホ、コホッ」
高杉の言葉に、飲んでいたビールが気管に入り込んだ。冗談を言うキャラではない。しかも、声が本気っぽくて。
優しく大丈夫か、と背を擦られると自分という個別にされた意識がフワリと実体を無くして新たなモノに作り変えられたようにグラリと心が傾いだ。
―――――オチるかと思った。
そんな、こんな一瞬のことで消え去られたら今までの俺の苦悩は、まさしく水の泡。侮れない、胸を刺激する小さな仕草も。
「・・・冗談?」
「まさか」
テーブルの向こうでは、コノヤロー先に潰れやがって落書きしてやる、ほらヅラペン。ヅラじゃない桂だ! よし、油性ペンで額に肉でも書きましょう、先生。お前いま原作キャラだったよね?
などと呑気なことやっているのに此方は、これからの人生が変わってしまいそうな大事件。
いい男ってのは其処ら中に居る訳か。ならば近藤さんだって、と二本目を飲み終えても一向に酔う気配の無い頭で考える。
・・・どうせ男ならいい男に惚れりゃあ良かった。後悔は小さな事にしか矛先を向けない。
全てを否定するのは怖くて。
今までの俺を、いつまでも確かなもののままにしておきたくて。
ピンポーン。
二人目の呼ばれざる訪問者を告げる人工音がする。それとも高杉の親だか家族だかが帰ってきたのだろうか。プシュと三本目のプルタブを手前から持ち上げ開けていると玄関から沖田ぁ、と呼ばれた。
何だ、ぱしられるのか。
ゴクゴクそれを煽りながらリビングを出ると高杉と対峙する格好で立っている男が此方を見た。
なんつーご都合主義。
笑えない代わりに驚きもしなかった。
「総悟、帰んぞ」
「・・・もう保護者ヅラですかィ。気が早いっての」
俺の手元を見て眉を寄せた、土方さんは多分善意でこうしてきたのだろう。どうせなら泊まってくるとでも言えば良かった。
煩わしい、そう思うのは僻んでもいるからだ。
帰るぞ、もう一度言われて再びビールを煽る。酔ってしまいたい、なのに中々酔えない質が今日程恨めしいことはもうないだろう。
「なんなら、泊まってくか?」
「・・・」
今度は余計なことを、とでも言うように高杉を見るが高杉はなんのその、とただただ俺を微笑を浮かべてみる。
何もかも忘れて
気が晴れるまで
安寧の中にいる
それは、逃げ道じゃないかもしれないけれど、俺にとっては逃げ道だ。
不毛でしかなかったこの気持ちを、未だ消したくない。
「・・・今日は帰りまさァ。今度は泊まりに来やすから、そんときよろしく」
「・・・本当に姉貴が好きなんだなァ。じゃあよ、今度は二人で飲もうぜ」
「わかりやした」
ポン、と俺の頭を撫でるように軽く叩いて、高杉はリビングへ戻った。
それを見届けてからくたくたのスニーカーに足を突っ込んでいると上着は、と土方さんが不機嫌そうに言った。
「ねぇですぜ。近いし、平気かと思って」
「バカだろ。風邪ひくに決まってんだろ」
せめてマフラーだけでも、と体温の分けられた赤いソレを首に巻かれる。
思い上がることはない。姉上とこの人がずっと前から両想いだったことを知っているから。だからこそ余計に、勘違いしそうになる自分が厭だ。
空を見ると晃々と月が輝いていた。
往きは気付かなかったのか、それともただ曇っていたのか。
「・・・あんなヤツんとこ行ってんじゃねぇよ。心配すんだろーが・・・ミツバが」
「高杉はいいヤツですぜ? 相談事とか真面目に聞いてくれるし。姉上なら分かりやす」
「・・・そうだろうと、行くな」
煮えきらない言葉に少し、ムッとする。
姉上と俺は姉弟だ。仲が悪いんじゃないんだし、思ったことぐらい普通に言うし、こんなんでも信用されている。なのに第三者―――――しかも土方から、言われるのは気に食わない。
それに。
「あんたのその言葉は友人として? それとも義兄としてですかィ?」
「そういうんじゃなくて、・・・ただ心配してっから、」
「俺の気持ち知ってるくせに!」
何もかも知っていてそれなのに、曖昧にしたまま姉上と結ばれて幸せになろうとする、アンタが憎い。
駆け出して後ろから聞こえてくる名を呼ぶ声も、マフラーに染み込んだこの匂いも、狂おしく。
明日になったらいつものように接するから、今だけは。
見上げた月は涙で滲んだ。
#86
嘆けとて 月やは物を 思はする
かこち顔なる わが涙かな
敗けを認めるなんて悲しいじゃないか。
誰かの心
幸せそうな姉上の顔。
見る度俺も幸せになる。
そして幸せを感じる度に俺は、疚しい気持ちに苛なまれる。
小さな頃から俺を女手一つで育ててくれた愛しい姉上。だから、姉上の幸せを誰よりも望んでいた。今も、望んでいるけれど。
愛しい人と好きな人が結ばれるのはなんて辛いのだろう。
俺は、そんなこと知りたくなかった。いずれ知るだろうことは分かっていたが。
暗い夜の街に一筋の光が射す。暖かい橙色のそれは段々と太くなる。
「あれ、沖田じゃねぇか。どうしたよ?」
「暇だったから遊びに来たんでィ」
深く詮索せずに、まぁ上がれよと言ってくれた優しい級友の後に続いて上がり込む。
過去一度、家の前までは来たことがあった。あの時は俺の方の時間が合わなくて上がれなかった、確か。
暖房のきいたリビングに入るともう一人のクラスメートと教師二人。・・・テーブルの上には一升瓶とビールの缶がごろごろと。
これバレたら流石に不味いだろうに。立ち尽くしていたら鼻がじんじんと、温度差に疼いた。
「あっれー沖田クンじゃん。誰か呼んでくれたわけ? もしかして高杉? 以心伝心しちまったわけ?」
「金時はドリーマーじゃき。おんしはおっきな男になるぜよ」
「銀八だっての」
「以心伝心? そんなわけなかろう。なぁ、高杉」
「ったりめーだろ。・・・ほら、此処座れよ沖田」
席に着いた高杉が自分の隣のスペースをポンポンと叩く。他にテーブルを囲めそうな場所は無くて素直にそこに座るとえ~、と正面からブーイングが上がった。いい年して日頃吹聴している分あって本当に、子どもっぽい。高杉や桂の方が精神的には上じゃないだろうか。桂は変だけど。
「で? 何かあったのだろう?」
「・・・」
何か、か。
あったようななかったような。だって、前々から分かっていたことだから。
“十四郎さんが卒業したら、結婚しようと思うの”
いつか、いつか言われると思っていた。邪ながら免罪符を得ていた俺の気持ちは、免罪符を失ってイラナイモノになってしまった。
祝福しまさァ、と笑顔で言えたのは本当にそう思っているから。だけど、一割にも満たない嫉妬が、あの場にいることに堪えられなかった。
「・・・フラれたか?」
「多串君に? うわ何アイツ。今度のテスト零点にしてやろっかな」
「いや、別にフラれたわけじゃねぇでさァ・・・こうなるって元から分かってやしたからねィ」
桂が俺に渡してくれた缶ビールを一口飲む。
喉を潤した冷たいそれはスーッと体内の熱を奪いながら落ちていく。
何よりも今は、こんな気持ちを抱いてしまった自分が哀れで。嫌いだと幾度も言えばその内本当に嫌いになれると馬鹿みたく信じて、その反面無意味なのも分かっていた。
何だって、分かっていたのだけれど。
「卒業したら結婚するそうでさァ」
「ひゅ~。よぉやるじゃき」
「そこ口笛吹くとこか? ・・・それで来たんだな」
「っていうか探してたりしねぇ? 大丈夫なの?」
「一応、友達ン所に行くって言っときやしたから、大丈夫でさァ」
春が来たら。
俺はあの家で邪魔者になってしまう。姉上も土方さんもそんなことないって言うだろうけど、それでも。
逃げてるだけだ。正面から受け止めようとしていない。自分から行動を起こさないで、嫌なことからは逃げるように目を背けて。
「ほら、じゃんじゃん飲め」
「そうだ。今日はパーッとな」
「なんなら慰めてやろうか?」
「ッゲホ、コホッ」
高杉の言葉に、飲んでいたビールが気管に入り込んだ。冗談を言うキャラではない。しかも、声が本気っぽくて。
優しく大丈夫か、と背を擦られると自分という個別にされた意識がフワリと実体を無くして新たなモノに作り変えられたようにグラリと心が傾いだ。
―――――オチるかと思った。
そんな、こんな一瞬のことで消え去られたら今までの俺の苦悩は、まさしく水の泡。侮れない、胸を刺激する小さな仕草も。
「・・・冗談?」
「まさか」
テーブルの向こうでは、コノヤロー先に潰れやがって落書きしてやる、ほらヅラペン。ヅラじゃない桂だ! よし、油性ペンで額に肉でも書きましょう、先生。お前いま原作キャラだったよね?
などと呑気なことやっているのに此方は、これからの人生が変わってしまいそうな大事件。
いい男ってのは其処ら中に居る訳か。ならば近藤さんだって、と二本目を飲み終えても一向に酔う気配の無い頭で考える。
・・・どうせ男ならいい男に惚れりゃあ良かった。後悔は小さな事にしか矛先を向けない。
全てを否定するのは怖くて。
今までの俺を、いつまでも確かなもののままにしておきたくて。
ピンポーン。
二人目の呼ばれざる訪問者を告げる人工音がする。それとも高杉の親だか家族だかが帰ってきたのだろうか。プシュと三本目のプルタブを手前から持ち上げ開けていると玄関から沖田ぁ、と呼ばれた。
何だ、ぱしられるのか。
ゴクゴクそれを煽りながらリビングを出ると高杉と対峙する格好で立っている男が此方を見た。
なんつーご都合主義。
笑えない代わりに驚きもしなかった。
「総悟、帰んぞ」
「・・・もう保護者ヅラですかィ。気が早いっての」
俺の手元を見て眉を寄せた、土方さんは多分善意でこうしてきたのだろう。どうせなら泊まってくるとでも言えば良かった。
煩わしい、そう思うのは僻んでもいるからだ。
帰るぞ、もう一度言われて再びビールを煽る。酔ってしまいたい、なのに中々酔えない質が今日程恨めしいことはもうないだろう。
「なんなら、泊まってくか?」
「・・・」
今度は余計なことを、とでも言うように高杉を見るが高杉はなんのその、とただただ俺を微笑を浮かべてみる。
何もかも忘れて
気が晴れるまで
安寧の中にいる
それは、逃げ道じゃないかもしれないけれど、俺にとっては逃げ道だ。
不毛でしかなかったこの気持ちを、未だ消したくない。
「・・・今日は帰りまさァ。今度は泊まりに来やすから、そんときよろしく」
「・・・本当に姉貴が好きなんだなァ。じゃあよ、今度は二人で飲もうぜ」
「わかりやした」
ポン、と俺の頭を撫でるように軽く叩いて、高杉はリビングへ戻った。
それを見届けてからくたくたのスニーカーに足を突っ込んでいると上着は、と土方さんが不機嫌そうに言った。
「ねぇですぜ。近いし、平気かと思って」
「バカだろ。風邪ひくに決まってんだろ」
せめてマフラーだけでも、と体温の分けられた赤いソレを首に巻かれる。
思い上がることはない。姉上とこの人がずっと前から両想いだったことを知っているから。だからこそ余計に、勘違いしそうになる自分が厭だ。
空を見ると晃々と月が輝いていた。
往きは気付かなかったのか、それともただ曇っていたのか。
「・・・あんなヤツんとこ行ってんじゃねぇよ。心配すんだろーが・・・ミツバが」
「高杉はいいヤツですぜ? 相談事とか真面目に聞いてくれるし。姉上なら分かりやす」
「・・・そうだろうと、行くな」
煮えきらない言葉に少し、ムッとする。
姉上と俺は姉弟だ。仲が悪いんじゃないんだし、思ったことぐらい普通に言うし、こんなんでも信用されている。なのに第三者―――――しかも土方から、言われるのは気に食わない。
それに。
「あんたのその言葉は友人として? それとも義兄としてですかィ?」
「そういうんじゃなくて、・・・ただ心配してっから、」
「俺の気持ち知ってるくせに!」
何もかも知っていてそれなのに、曖昧にしたまま姉上と結ばれて幸せになろうとする、アンタが憎い。
駆け出して後ろから聞こえてくる名を呼ぶ声も、マフラーに染み込んだこの匂いも、狂おしく。
明日になったらいつものように接するから、今だけは。
見上げた月は涙で滲んだ。
#86
嘆けとて 月やは物を 思はする
かこち顔なる わが涙かな
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