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梅々

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約束は違えるためにあるのだよ

悪人ぶってみますが今日だけ今だけです。

約束は守るためにあるのですよ、確か←



そんなノリで沖土連載の前にネタが浮かんだ土沖を書いてしまいました。今月未だ沖土書いてないですねこのばか!











それでは、土沖。

少しシリアルじゃなくてシリアスです。

執着は究極の愛か否か。
































うわぁ、鬼だ。

目が合った原田さんがニヤニヤしながら言った。



でも、本当の鬼は蛇を生殺しにするものだ。











鬼に睨まれた蛇











空は青色を誇らしげに見せびらかして、それを邪魔するように点々と灰色の雲が浮かんでいる。

その下をいつも通りのんびりと歩くのが俺たちの仕事だ。何か遭った試しは殆どない。ないのだけれど。



「あ、山崎だ」



「ん? どこだよ」



ふと視界に入った地味な顔に声を上げる。すると斜め前を歩んでいた土方さんが立ち止まり、左右を見回す。けどその視線が捉えているのは道行く人々だけだから、絶対に山崎を見付けることはできない。

だから、指を差す。



「彼処。別嬪なねぇちゃんと茶しばいてまさァ」



「・・・ホントだ」



通り沿いのビルの二階、窓に面した喫茶店で楽しそうに何か話している。

付き合っているのは知っていたけれど彼女を見るのは初めてだった。猫のように、隠れて逢い引きしやがるから。



「彼女いたんだな」



「此方へ来てすぐから付き合ってるらしいからね、そろそろどっちかに転びやすね」



切れるか、より固く結ばれるか。

言ったらよく知ってるなという目を向けた後、知らない表情をされた。探るようでいて、諦めているようで、好戦的な。その意味をはかりかねて歩き出せば、それと同時に土方さんも歩き出す。だから、表情はもう窺えない。

山崎は幸せそうに笑っていた。名前も知らない彼女も同様に。

好きな人といて、互いが幸せな気持ちになれるなんて凄いことをしている山崎を、初めて眩しいと思った。



「山崎なら、」



「うん?」



「幸せな家庭を作りそうですよねィ。金が無くても皆、笑って頑張っていけるような」



「・・・」



振り向いた顔が失礼だった。蔑んだように眉が寄せられていて、口は不機嫌そうなへの字だった。もし立場が逆ならものっそい土方さんがキレるだろう顔。

何がしたい何が言いたい。と、待てども土方さんは何も言わずに見廻りの続きに入った。

期待するだけ無駄だと分かっている。それなのに、また期待してしまった。

土方さんは、何も与えてはくれない。昔から、ずっと。俺が望んだもの、全て。

欲しい言葉も、欲しい仕種も、何もかも。



「・・・そういやお前、昨日また女振ったんだって?」



「悪趣味ィ。そんな話持ち出して何が楽しいんですかィ」



「いつもお前だって言ってくんだろ」



昨日は運が悪かった。

なんとか諦めさせてふぅと息をつきながら顔を上げたら、電柱の影から覗いてる原田さんと目があって。ニタァ、と笑われて厄日かも、思ったら夕飯の後こっぴどくからかわれた。



「こいつはホント、鬼だよ」



「あぁ、俺も見たな。あの魔の七日間の時」



「あったあった! 懐かしいそれ!」



「女の涙も通用しねぇもんな」



好き勝手話す原田さん達を横目に、俺はチビチビと藤堂さんのくれた酒を呑む。何を言っても逆効果、ならば黙ってるのが手っ取り早いという話だ。

皆、俺をさも冷徹な男のように言うが、付き合う気がないのだからばっさり断るのは普通ではないのだろうか。



「魔の七日間というと、あれですね」



「山崎お前もいたのかよ」



「まぁ、気になりますからね沖田さん。・・・七日間で十人振ったって伝説ですよね」



「副長も負けるぜ」



「違いねぇなァ」



アッハッハと豪快に笑う皆さんのお顔はまっかっか。これなら明日の朝には軽い記憶喪失になっているだろう。山崎と斎藤さんを除いて。

ならば土方さんに漏れることはないかと一安心。あの人は、中々煩わしいから。

本当に煩わしい。土方さんの縁の切れ目は大抵俺と山崎が目撃する。見廻りで歩いてたら偶然遭遇してしまうのだ。いや、もう偶然なんて言えない、故意にやってるとしか思えない。

あの人は、重たい関係を好まない。体と少しの愛情、言葉遊びと艶めくお戯れ。つまりは客と敵娼に毛が生えた程度の関係。それ以上天秤が傾げば女は何をしようと即切られる。泣こうと懇願しようと、切れた糸は戻らない。そんな風に一方的に終わりを告げるのにあの人が刺されたりしつこくまとわりつかれないのは。



「泣き喚く女の唇塞ぎゃあすんなり終わるんだからすげぇよ」



「そこが色男サンの技かねェ」



「ぼうやも見倣わなきゃなァ」



「切れる話じゃなくて俺は結ばねぇ話なんでさァ」



「・・・もうそんなことどうでもいいみたいですよ」



「あーだから酔っ払いは」



手に負えない。



本当に手に負えない。酔っ払った原田が昨日楽しげに話してくれたんだよと、咥え煙草で色男サンは言った。

あの人いつか刺されないかな。なんて冗談にならない冗談は言わないで飲み込み、連れない上司を見る。

体だけの関係だと分かりきっている。だから、悉く振っているのは操立てとかでは決してない、それは土方さんも知っている。

お付き合いとは結婚を前提としたものだ。だけど、俺には他人を幸せにしてやれる技量も資格もないから、誰とも付き合わない。

切れる心配もないし、振られた腹いせに刺されかけることはあっても刺されることはないので、問題はない。だから、俺は今がとても居心地がいい。いずれ、俺なんかに告白してくる物好きもいなくなるだろう。そしたら今よりもっと、快適になる。



「・・・その頃には、アンタも結婚してんのかな」



「ハァ? 結婚? そんなのするわけねーだろ」



「・・・そうですね。アンタはなんか結婚してもすぐ離婚しそう」



「俺には真選組がありゃ何にもいらねぇんだよ。・・・強いて言えば、真選組と結婚してんだ」



「うわぁムサすぎでさァ。・・・じゃあ俺は、とびっきり可愛い子と結婚して可愛い男の子授かって、溺愛してやりまさァ。アンタに見せつける感じで」



ニタニタ笑いながら言うも返事はなかった。てっきり、やれるもんならやってみろと言われると思ったのに。

期待を裏切るのが好きすぎるだろ、なんて顔を覗き込もうとしたら唐突に腕を引かれてそのまま、路地裏まで連れ込まれた。

腕を掴む力は優しい、けれど空気は剣呑としていて意味が分からない。至上最強の馬鹿にも分かるよう、状況説明をお願いしたい。

人気がないとこまで連れ込まれて解放された。土方さんの顔はあまりにも無表情。



「なに、」



「冗談に聞こえない冗談は止めろ」



「なんで怒ってんでさ、」



「うるせぇ。結婚なんざ、させるわけないだろ。」



お前も道連れだ。

返り事を拒むように唇が塞がれた。荒々しいそれに息を奪われて、代わりに熱を与えられる。

なんで、ほしいものはくれないくせに。

そもそも介入しすぎだ、暗黙の不可侵条約はどうした。道連れだなんて、そんな執着はいらない。

欲しいのは―――――。



アンタが、与えてはくれない感情。











(助けて)

(視線を反らしたら愛を口走ってしまう)

(そうしたら、)

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