梅々
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犠牲の上にある生
沖田の部屋の障子を開けたら壁一面真っ黒で床には魔法陣らしきものがあった。
「あっ、土方さん」
「ありきたりな質問なんだけど、何してんの?」
「降霊術でさァ」
「降霊術ぅ?」
「姉上に会えるんじゃねぇか、って」
「―――」
「・・・まぁ、こんなの気休に過ぎねぇってわかってんですがねィ」
降霊術なんて大切な人が死んで生きる気力も無くなったけど死ねない、死ぬ勇気の無い人が気休にするものでは? と思った。けど、会えるなら会いたいってそれにすがりつきたくなる気持ちはわかります。
いきなりどうしたんだろうね、私。
まぁ気にしないで百人一首初期沖田片想いいってみよー。
今日通販届いたんでテンション高いです(*^^*)
「あっ、土方さん」
「ありきたりな質問なんだけど、何してんの?」
「降霊術でさァ」
「降霊術ぅ?」
「姉上に会えるんじゃねぇか、って」
「―――」
「・・・まぁ、こんなの気休に過ぎねぇってわかってんですがねィ」
降霊術なんて大切な人が死んで生きる気力も無くなったけど死ねない、死ぬ勇気の無い人が気休にするものでは? と思った。けど、会えるなら会いたいってそれにすがりつきたくなる気持ちはわかります。
いきなりどうしたんだろうね、私。
まぁ気にしないで百人一首初期沖田片想いいってみよー。
今日通販届いたんでテンション高いです(*^^*)
わかってたんだ。
最初から、この想いはやり場の亡いものだと。
それでも捨てきれず、僕はこの想いを抱いたまま。
波止場の潮風
霧雨が降り出した、と本日の洗濯当番である新八達が大慌てで洗濯物をしまうのを眺めてから、久々に散歩でもしようと下駄を引っ掛け、普段よりしおらしい町に繰り出した。
夕暮れ時の今はこの町にとっては朝も同然、これからどんどん賑わっていく。わざと傘を忘れたのに、行き違う人々は哀れむような瞳であたしを見てくる。それが少し煩わしくて、人通りの少ない路地へと入る。
またとない偶然だ、そう思った。路地の先、見飽きた銀髪を見付けた時は。声を掛けようと口を開き掛けて隣に並ぶ、綺麗な女の人が目に入る。
―――――嗚呼、また行くのですか。
仕事の無い夜は殆どいつも、土方さんは夜の歌舞伎町へと消えてゆく。
何度、その後ろ姿を見送ったことか、数えきれない。
「・・・・・・ばぁか」
武州に居た頃から女遊びの激しい人だった。
悪くはない顔に惹かれる人は沢山居たのだろう。
あたしも、だなんて認めたくない。
散歩する気分も削がれたし、とUターンして行きよりも早い足取りで元来た道を戻る。
やっぱ傘持ってくれば良かった、と思ったら前方から見慣れた人間が小走りで寄ってきた。
「・・・新八」
「もう沖田さん!! 傘持って出ないなんて何考えてんですか! 体弱いんですから・・・」
傘の中に入れ、持ってきたタオルで顔を拭いてくれる新八を心配性だなァ、と笑うとそれを見て、安堵したようにホッと息を吐く。
新八は優しい。こんなあたしのこと心配してくれるのは近藤さんと新八ぐらいだ。あんな屑みたいな人より先に新八に会ってたら、あたしは新八を好きになっていた?
・・・多分、それでもあたしはあの屑を、好きになってしまっていただろう。
恋に落ちるきっかけなんて本当に些細な物なんだ。
だって、あたしは覚えてない、いつからあの人を好きになったのか。どこを好きになったのか。
「帰ったら飲もっか、新八」
「未だ夕方ですよ」
「じゃあ夕飯食べてから。いいでしょ? 新八」
問い掛けると仕方ないとでも言うように、ハァと溜め息をつく。
ハイ、と渡された自分の傘を無視して新八の傘に入るとキョトンと目を丸め、固まった新八が面白い。
「ちょっ、えっ? 沖田さん?」
「近藤さん以外と相合傘すんの初めてだなァ」
「相合い傘・・・ッ」
土方さんともしたことなかったなぁ、なんて思って、そんなこと考えた自分に少し、後悔。
もう、諦めよう。なんて思ったのは何度目だろう。
でも、今度こそは。
「土方ばぁか」
「ハァ? いきなりなんなのお前」
帰ってきたばかりで靴を脱ごうとしていた土方にそう言うと、怪訝そうな顔をして、動きを一度止め態々此方を見つめて来た。
ふわり。あたしに縁の無い白粉の匂いが舞う。
頭に浮かぶのは仲良さげに歩いていたあたしなんかよりも美人の女の人。
もしも、付き合う事が出来たとしても、あたしは今と変わらず女の人の匂いに傷付いて独りで寝るんだろう。
ねぇ、土方さん。
#72
音に聞く たかしの浜の あだ波は
かけじや袖の 濡れもこそすれ
最初から、この想いはやり場の亡いものだと。
それでも捨てきれず、僕はこの想いを抱いたまま。
波止場の潮風
霧雨が降り出した、と本日の洗濯当番である新八達が大慌てで洗濯物をしまうのを眺めてから、久々に散歩でもしようと下駄を引っ掛け、普段よりしおらしい町に繰り出した。
夕暮れ時の今はこの町にとっては朝も同然、これからどんどん賑わっていく。わざと傘を忘れたのに、行き違う人々は哀れむような瞳であたしを見てくる。それが少し煩わしくて、人通りの少ない路地へと入る。
またとない偶然だ、そう思った。路地の先、見飽きた銀髪を見付けた時は。声を掛けようと口を開き掛けて隣に並ぶ、綺麗な女の人が目に入る。
―――――嗚呼、また行くのですか。
仕事の無い夜は殆どいつも、土方さんは夜の歌舞伎町へと消えてゆく。
何度、その後ろ姿を見送ったことか、数えきれない。
「・・・・・・ばぁか」
武州に居た頃から女遊びの激しい人だった。
悪くはない顔に惹かれる人は沢山居たのだろう。
あたしも、だなんて認めたくない。
散歩する気分も削がれたし、とUターンして行きよりも早い足取りで元来た道を戻る。
やっぱ傘持ってくれば良かった、と思ったら前方から見慣れた人間が小走りで寄ってきた。
「・・・新八」
「もう沖田さん!! 傘持って出ないなんて何考えてんですか! 体弱いんですから・・・」
傘の中に入れ、持ってきたタオルで顔を拭いてくれる新八を心配性だなァ、と笑うとそれを見て、安堵したようにホッと息を吐く。
新八は優しい。こんなあたしのこと心配してくれるのは近藤さんと新八ぐらいだ。あんな屑みたいな人より先に新八に会ってたら、あたしは新八を好きになっていた?
・・・多分、それでもあたしはあの屑を、好きになってしまっていただろう。
恋に落ちるきっかけなんて本当に些細な物なんだ。
だって、あたしは覚えてない、いつからあの人を好きになったのか。どこを好きになったのか。
「帰ったら飲もっか、新八」
「未だ夕方ですよ」
「じゃあ夕飯食べてから。いいでしょ? 新八」
問い掛けると仕方ないとでも言うように、ハァと溜め息をつく。
ハイ、と渡された自分の傘を無視して新八の傘に入るとキョトンと目を丸め、固まった新八が面白い。
「ちょっ、えっ? 沖田さん?」
「近藤さん以外と相合傘すんの初めてだなァ」
「相合い傘・・・ッ」
土方さんともしたことなかったなぁ、なんて思って、そんなこと考えた自分に少し、後悔。
もう、諦めよう。なんて思ったのは何度目だろう。
でも、今度こそは。
「土方ばぁか」
「ハァ? いきなりなんなのお前」
帰ってきたばかりで靴を脱ごうとしていた土方にそう言うと、怪訝そうな顔をして、動きを一度止め態々此方を見つめて来た。
ふわり。あたしに縁の無い白粉の匂いが舞う。
頭に浮かぶのは仲良さげに歩いていたあたしなんかよりも美人の女の人。
もしも、付き合う事が出来たとしても、あたしは今と変わらず女の人の匂いに傷付いて独りで寝るんだろう。
ねぇ、土方さん。
#72
音に聞く たかしの浜の あだ波は
かけじや袖の 濡れもこそすれ
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