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梅々

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帰省からただいま

帰省から帰ってきました。

明日からまたプチ就活かな。











それでは個人的には夏場は続けたいパロディ。

まだカップリングはないけどスランプですね←



























霞の深池は三度水音がしても振り返っちゃいけないよ。
一度目ならばまだ平気。
二度目ならば早く帰れ。
三度目ならば帰れまい。





水の中心





 ちゃぽん。水の音がして振り向く。けれど何の姿も見えず気のせいかと視線を本に戻す。だが一回集中力が途切れると蝉の音が喧しくて集中出来ず何行目まで読んだか分からなくなる。
 一先ず読むのを諦めるかと本を閉じかけたところ再び耳に届いた。ぽちゃ、背後の池から水音がして振り返る。やはり水面は静かで何もいないように、見えたのだが。一ヶ所水面が揺らいでいる。波紋がじわじわと広がって、鏡のようだった平面が歪む。何か落ちたのだろうか。木がかかっていれば木の実か何かが落ちただろうと思うが、木々に囲まれてはいるが池の周りは草原であり空を飛ぶものもいなければ波紋の中心は池の中心に近く草の中にいた動物が落ちたわけでもなさそうだ。蝉でも落ちたのだろう、ということにして本を鞄にしまう。
 一年ぶりに来た祖母の家は前に来たときとは変わりなく長閑な田舎だった。田圃と山に囲まれ一軒一軒が広く、ゆっくりと時間が流れている田舎。俺自身は割りとせっかちな方だが、たまにはこういうのもいいかもしれない。日中は木漏れ日の下で本を読み日が落ちてからは祖母の家でテレビを見たり家事手伝いをしたりと何にも急かされることのない生活を送っている。此処へ来るまでは試験やレポートに追われていたからより肩の荷が落ちている気がする。
 暫く寝るかと瞼を閉じる。さぁぁと涼しい風が頬を撫で草や木々を揺らす。その風に乗せて、花の匂いがした。甘すぎずしっとりとした匂いに瞼を開くと、ぽちゃん。三度目の音がした。今度こそ何か見られるか、否どうせ何もないだろう。瞬巡してチラリ、盗み見ると。

「―――」

 漸く音の元が分かった。波紋の中心に人がいる。いるのだけれど、普通ではなかった。水面に爪先立ちで立っているのだ。赤く縁取りのされた白い振り袖のような長着に、もんぺと袴の中間のような緋色の下履き。なんつー格好だと目を凝らす。純和風な衣装とは対照的な蜂蜜色の髪がさらり、靡いて。下を向いていた顔が此方を向いた。袴よりも深く真っ赤な二つの眼が俺を焦点に据える。
 なんだコイツ、なんで水上に立ってるんだ。もしかして幽霊だとか危ないもんなんじゃねぇか。思って決して逃げるわけではなく立ち去ろうとするが体は言うことを聞こうとしない。金縛りにあったように視線を反らせず、優雅に水面を歩く姿を見続けるしかない。陸地に真っ白な足袋が触れる。すると微風が吹いて自由奔放に生えている草が左右に割れ道が出来た。
 モーゼか、海をわっちまうのりかと冷や汗だけは自由に流れる。

「ふうん。マジで見えるみたいですねェ」

 目の前に立ったそれは面白そうにそう言った。悲鳴を上げそうになったが声が出ないのが幸いした。見た目からは性別が分からなかったが声からして男であるようだ、恐らく年下だが、これが幽霊ならば年なんか関係なく敬うべきなのだろう。人が敬語を使うのは尊敬の気持ちの表れである場合と恐れの裏返しだと古典の授業で習った覚えがある。声が出るならば敬語で、と思いながらもそんな暇があるなら今にも走り出したい。
 とって食われるのか、じぃと俺を見たまま動かないそれから他に成す術もなく見返していると。すぅと腕が伸びた。白い布から手首にある数珠が覗き、鈴がチリンと鳴る。そしてポンと、肩を叩かれた。

「これで動けるだろィ」

「っは、」

 触れられた瞬間身体中の緊張の糸がほどけたように、強ばりが無くなった。思わず後頭部を背後の幹に当て、目を瞑りながら息を吐く。これが金縛りか。人生初だと呑気にそんなことを考えられるのは非常時だからこそだという。

「アンタさ、地元の人じゃねぇでしょ」

「…ああ」

 いつ何をされるか分からない。頷きながら睨み続けているとクスリと目前の男は笑った。すっとしゃがみ、俺と視線を合わせたそれは猫のように目をきらきら輝かせる。

「この池で水音がしたら振り返っちゃいけないらしいですぜ」

「そういえば、」

「三回目に振り向くと人間は俺達が見えるようになる」

 そんな話を聞いたことがあるような気がする。随分と小さな頃だ。母に手を引かれ帰省した時によく言い聞かせられた。この池で水音がしても振り返ってはいけないと。三回水音がする前に早く帰れと。当時は気に止めていたが昔の話ですっかり忘れてしまっていた。
 リン、と鈴を鳴らして今度は両手が伸びる。曲げた膝や肩、顔をぺたぺたと触られて食前の触診かと体が跳ねる。触れてくる指先は冷たく、心地好さに負けて動けない。それだけではなく。真っ直ぐ此方を見てくる目が真剣で怯んでしまう。

「お前は幽霊か?」

「そんなもんと一緒にしないでくだせェ。俺はこの池の主でさァ。アンタ、名前は」

 主とは何だ。神様か妖怪か。水の上にたっていたぐらいだ、人間ではないのは確かだ。よくよく考えれば幽霊は人を食わないだろうと今気付いた。明らかに混乱している事実に目眩を感じていると名前はと急かされた。
 名前を教えることは支配を許すことだ云々と友人の地味なオタクが言っていたことをふと思い出して口をつぐむ。ふわり、風が吹いて目の前の池の主から花の匂いがした。落ち着く優しい匂いがする。

「だぁかぁらぁ、名前はっつってんだろィ」

「…聞いて何するんだ」

「ただ知りたいだけでさ。名前知らなきゃ呼べないし。ああもう焦れったいなァ」

「え、」

 一瞬眉を寄せた男自分の唇に人差し指をあてると何かぶつぶつと呟いた。それを、離したと思えば俺の唇に当てた。
 間接キスだ。思うと同時に意思とは関係なく唇が開いた。

「土方十四郎、ってなんで勝手に…!」

「俺に黙りは効かないってことですぜ土方さん。神様の前じゃ誰も隠し事はできねぇんでさ」

 にんまり笑う自称神様はそうかそうか、土方さんか、と楽しそうに名前を呟いた。

「また明日きなせぇ。そんで俺と遊びなせェよ」

「は?」

「久々に人と話せるんだ。色んな事教えなせェ。さもないとアンタのこと食べちまいやすぜ。ね?」

 食われたいかと問われれば全力で首を横に振る。だからどうせ明日も来る予定だったのだ、見た目は普通なこのおかしなものと話せば食われずに済むと言うのなら。
 分かったと頷けば満足げにそれは笑った。

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