梅々
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ほんじつはていでんなり
19時から停電だったので家族で20時に布団入ったら20時30分に停電が終わったという。
なんだそりゃ。
近頃ニュースの地震被災地についての情報が減った気がします。見てないだけ?煙草以下の放射能とか興味はないのですが。
眠たい。
それでは、土沖で卒業ネタです。
長め。
自分の卒業式思い出しつつかきました。
卒業式から13日経った。
なんだそりゃ。
近頃ニュースの地震被災地についての情報が減った気がします。見てないだけ?煙草以下の放射能とか興味はないのですが。
眠たい。
それでは、土沖で卒業ネタです。
長め。
自分の卒業式思い出しつつかきました。
卒業式から13日経った。
目をつむって
さよならを
春泥
梅の花も大分見なくなってきた。風は依然として冷たいままだが、日差しも優しく温かくなりつつある。空の青さは変わらないが、緑は青々と繁り始めている。
春、なのだ。
だから。
だから土方さんは、卒業する。春が来なければ、あの人は卒業しなかったのに。恨みがましく思うけれど春が来ないなんてことはなければ、あの人が卒業しない、なんてこともない。三年生なのだから。
東京の大学へ行くのだそうだ。頭がいいあの人は。そういうのに疎い俺でさえ知っている有名な大学へ。それは、とても喜ばしいこと。だからといって、手放しで喜べるほど人間というのは単細胞ではないから。
大して関係としては深くない。高三の先輩と高一の後輩、部活は被っていない、委員会は辛うじて同じだった程度、のはずなのだ。なのに。
キスしよう、言われたのは七月だった。夏休み前の、暑い日。冷房を求めて図書室へ行ったら土方さんがいて。その頃には何故かクラスメイトよりも仲良くなってたから、姿を見つけてなんとなく傍に座って、だらだらとだべった後で。
「キスをしよう」
「は、い?」
「だから、キス」
言うまでもなく、土方さんはあの容姿に生徒会副会長の肩書きと、モテモテだった。頭も良いし、人の扱い方も知っているし。
だから。そんな風に言われたら全女子生徒の九割近くは、落ちるんじゃないかと思うけれど。俺は生意気な後輩でしかないはず。
暑さにやられたか。思ったまま言ったら茶化せない真摯さでおまえがほしい、なんて言われた。同時に掴まれた手首が人の熱を伝えて。
そういうのに、俺は弱い。真摯に縋られると、撥ね付けられない。優越感を抱いたのかもしれなかった。普段、俺よりも男らしくてどこもかしこも優れているあの人が、俺に縋っているという事実に。
段々と近づいてくる顔に、抗うこともしないで。人工の清風の中、俺たちはキスをした。
そして、今振り返ってみたら恋人同士のような関係なっていた。初めてのキス、それから二月経つか経たないかぐらいにキス以上のことをした。あれも流された。流されて男と、なんて馬鹿らしいとは思うけれど。
今まで味わったことのないぐらいの優越感に酔いしれた。キスをするだけでも、傍にいるだけでも足らないと。何度も名前を呼んで、お前じゃなきゃ駄目だと言う姿を嬉しく思ってもいたのだ。他人にあんなに求められることなんて、なかったから。
気持ちも、心地も良かったけれど。俺があの人の傍にいたのは優越感に浸れた、それまでのことで。
去るあの人を追ってまで傍にいたいとは思わない。
だから。
「やーまーざーき」
「いたっ」
休み時間、前に座っている山崎の後ろ首をシャーペンで突っついた。山崎とつるむようになったのは土方さんが受験勉強に精を出すようになってからだ。放課後も、毎日つるんでいたのが週四になったし、休み時間や昼もあんまり会わなくなって、それからなんだかんだ山崎といるようになった。それでも結構な頻度で土方さんと行為に及んでいるけれど。
首を撫で擦りながら振り返った、山崎の頬を突っつく。ぷに、案外柔らかな頬に爪を刺さったのが地味に楽しい。
「吹部、人足んないんだろィ」
「足んないんですよー!三年生がドカッと抜けちゃって、二年生は三人に一年七人で」
その所為で部長になってしまったと、この間ぶーたれていた。
「卒業式、手伝ってやるよ」
「え、」
「人数合わせでよけりゃ」
一月になってから。あの人は何か言おうとしては口を閉ざすことが増えた。躊躇うような、ことで。問えば頬を染めるような、こと。嫌な予感がした。一月末からは自由登校も始まり、あの人も受験がありで易々と会えなくなる。会えない口実を増やして会う回数が減れば。あの人がそれを言う機会は減るわけで。
「助かります、お願いします!」
「ん」
会いたくないから、なんて理由だから礼を言われるほどではないのに。
*
ざわざわと落ち着かない。どこにいても、そう。三年生は最後の登校にざわめいていたり、送り出す側は好きな人でもいたのか三年生のほうをチラチラ窺っていたり。そんなのを眺めながら楽器の運搬を手伝う。帰宅部で暇だったから、山崎について何度か吹部に邪魔して楽器を吹いたりしていたから、演奏はなんとかなるはず。顧問の先生にも誉められたし。
この学校は卒業式で入退場、校歌斉唱のときに吹奏楽部が演奏をする。その演奏をする場所は体育館の入り口上の、二階と呼ぶには烏滸がましいスペースで。そこに楽器を運んで、式中はずっとそこにいる。そのスペースの壁は百五十センチぐらいの高さで、式を臨むことはできない。
声は聞こえても、あの人の姿を見ることはない。
「・・・沖田さん本当にいいんですか」
「なにが」
「・・・いや、土方さんが・・・」
言い澱まれても困る。何のために手伝うことにしたと思ってる。今日、会う時間を削りたいからだ。
重ねて山崎は言おうとしたけれど。指揮者の先生が前に立ち、話は終わった。
三組だったな、と吹きながらも耳をすませていると、三組の入場中黄色い歓声があがった。悲鳴まじりに名前を呼ぶのが聞こえる。あの人の姿を思い描こうと瞼を閉じた。
入場、卒業証書の授与に長い話。そのあとに、卒業生からの言葉がある。卒業生から学校へのものは、元生徒会長が読み上げた。在校生へのものは、土方さんが読み上げる、らしい。名前を呼ばれ返事する声に無意識に耳を尖らせた。そして、朗々と読み始めた声のみを聞く。
―――――総悟、と。
あの声に優しく呼ばれるのが好きだった。声が雄弁に、土方さんの気持ちを伝えてくれて。
吹部の手伝いをすると、土方さんには告げてある。さして何も言われなかったが悲しそうな顔をしていた。式後も片付けがあるし、三年生は打ち上げをするとも聞いた。もう、会えないかもしれない、この声をもう聞けないかもしれない。
あの七月に、戻れたらいいのに。
*
式は終わり、楽器の運搬も終わった。山崎にジュースをおごってもらっていたら携帯が鳴った。式のためバイブにして、そのままだ。
「もしもし」
『総悟』
「・・・土方さん」
『時間空いたらでいい。いつものとこな』
「ちょっ、」
プツリ。言うだけ言って切られた。
切れたままの携帯を眺めていたら、山崎がフッと息を吐いた。もしかしたら笑ったのかもしれない。
「最後ですし、行ってあげてください。じゃ、また明日、沖田さん」
山崎も言うだけ言って手を振りながら行ってしまって。選択肢を掻き消された気分だ。
・・・最後、だから。
仕方なく、階段を上る。いつもの場所、とは。生徒会室だ。二人でよくいた。金曜は生徒会室で下校時刻まで土方さんが書類を片付けるのを待ってから土方さん家に行ったりしていた。
今年になってから足を踏み入れるのは初めてのかもしれない。
立て付けの悪いドアを腰を入れ開閉して、衝立の奥へ向かう。人影が見えたからそこにいるのだろう。
一週間ぶりに会う、土方さん。見た途端胸が締め付けられたようになった。ブレザーの胸ポケットに人工の花が差してある。それが似合うから恐ろしい。男のくせに。
「・・・卒業おめでとうございまさァ」
「ありがとな」
柔く笑う、表情を見ていられなくて顔を反らす。早く。早く、別れの言葉を言えばいい。ありがとう、楽しかった、さよならと。
他の言葉はいらないから。
「総悟、」
「っわ、」
気を抜いていた。肩を掴まれて、ぐいっと抱き締められた。呼吸をすれば、微かに香る煙草の苦さ。私服ほどではないけれど、この人の匂い。
大人しくされるがまま、胸に顔を埋めていたら、背にあった手が腰へと滑った。
「やめっ、」
「好きだ、総悟・・・好きなんだ」
祈るような悲痛な声が耳に届いた。ハッと顔をあげると、声と同じような、表情。
そんな顔をしないで。
そんな言葉、言わないで。
見たくない。聞きたくない。だって、・・・だって。
俺に我が儘は言えない。好きだから。ずっと傍にいてほしいなんて、言ったって困らせるだけだ。
離さないでほしい、ずっと名前を呼んでいてほしい。
そんな、弱い言葉を吐くぐらいなら。切り捨てられた方がいい。切り捨てた方がいい。
好きだから。迷惑をかけたくない。
流されたフリをしていた。優越感に浸る、フリをしていた。本当は気付いていた、それらは嘘だと。そうじゃなきゃ、好きだと言われる度に胸が高鳴ったりしない。抱かれたり、しない。
自分に言い訳をしていた。そうでもしなければ、土方さんがほしくてほしくて、堪らなくなりそうだったから。
「もう毎日のようには、会えないけど。その分お前が愛しくなる。お前に会えない一日は長ぇよ、総悟・・・」
「ひじ、かたさん・・・」
「総悟・・・」
「・・・・・・好きでさァ」
ひゅっ、と息を吸ったのが聞こえた。驚いた顔をしている。当然だ、好きだって言ったのは初めてなのだから。
言葉にしたらもっと気持ちが溢れ出た。もう何もいらない。土方さんさえいればいい。
欲しくて我慢が効かなくて、俺に侵食されてしまえばいいと思う。ずっと一緒にいたい。
「お前が卒業したら、俺んとこ来い。永久就職、させてやるから」
「二年もありまさァ」
「そう遠くもねぇし、携帯だってあるんだ。・・・ってか、おまえも寂しいんだな、俺に毎日会えなくなんの」
「・・・そりゃあ、アンタほどの金蔓いねぇし。・・・キスも、滅多にできなくなるし」
恥ずかしさに俯けば、頬を優しくなぞられて顔をあげさせられた。
開いた窓からふわり、春の匂いがして泣きそうになる。
駄々はこねたくない。人知れず努力して、常に一歩ずつ前進していくこの人が好きなんだから。足手纏いになるのは嫌だ。理性ではそう思うのに。
「・・・キス、し貯めとくか」
「二年分ですかィ?」
「あぁ、二年分。・・・俺も我慢できねぇ」
泣きそうな笑みを浮かべた土方さんに、ちゅっと唇を寄せた。瞼を閉じることなく土方さんを目に焼き付けて、首の後ろに腕を回す。
ふわり。
風が吹き込み、優しい優しい春の匂いがした。
(目をつむって)
(さよならを)
(嘘つきな自分へ)
さよならを
春泥
梅の花も大分見なくなってきた。風は依然として冷たいままだが、日差しも優しく温かくなりつつある。空の青さは変わらないが、緑は青々と繁り始めている。
春、なのだ。
だから。
だから土方さんは、卒業する。春が来なければ、あの人は卒業しなかったのに。恨みがましく思うけれど春が来ないなんてことはなければ、あの人が卒業しない、なんてこともない。三年生なのだから。
東京の大学へ行くのだそうだ。頭がいいあの人は。そういうのに疎い俺でさえ知っている有名な大学へ。それは、とても喜ばしいこと。だからといって、手放しで喜べるほど人間というのは単細胞ではないから。
大して関係としては深くない。高三の先輩と高一の後輩、部活は被っていない、委員会は辛うじて同じだった程度、のはずなのだ。なのに。
キスしよう、言われたのは七月だった。夏休み前の、暑い日。冷房を求めて図書室へ行ったら土方さんがいて。その頃には何故かクラスメイトよりも仲良くなってたから、姿を見つけてなんとなく傍に座って、だらだらとだべった後で。
「キスをしよう」
「は、い?」
「だから、キス」
言うまでもなく、土方さんはあの容姿に生徒会副会長の肩書きと、モテモテだった。頭も良いし、人の扱い方も知っているし。
だから。そんな風に言われたら全女子生徒の九割近くは、落ちるんじゃないかと思うけれど。俺は生意気な後輩でしかないはず。
暑さにやられたか。思ったまま言ったら茶化せない真摯さでおまえがほしい、なんて言われた。同時に掴まれた手首が人の熱を伝えて。
そういうのに、俺は弱い。真摯に縋られると、撥ね付けられない。優越感を抱いたのかもしれなかった。普段、俺よりも男らしくてどこもかしこも優れているあの人が、俺に縋っているという事実に。
段々と近づいてくる顔に、抗うこともしないで。人工の清風の中、俺たちはキスをした。
そして、今振り返ってみたら恋人同士のような関係なっていた。初めてのキス、それから二月経つか経たないかぐらいにキス以上のことをした。あれも流された。流されて男と、なんて馬鹿らしいとは思うけれど。
今まで味わったことのないぐらいの優越感に酔いしれた。キスをするだけでも、傍にいるだけでも足らないと。何度も名前を呼んで、お前じゃなきゃ駄目だと言う姿を嬉しく思ってもいたのだ。他人にあんなに求められることなんて、なかったから。
気持ちも、心地も良かったけれど。俺があの人の傍にいたのは優越感に浸れた、それまでのことで。
去るあの人を追ってまで傍にいたいとは思わない。
だから。
「やーまーざーき」
「いたっ」
休み時間、前に座っている山崎の後ろ首をシャーペンで突っついた。山崎とつるむようになったのは土方さんが受験勉強に精を出すようになってからだ。放課後も、毎日つるんでいたのが週四になったし、休み時間や昼もあんまり会わなくなって、それからなんだかんだ山崎といるようになった。それでも結構な頻度で土方さんと行為に及んでいるけれど。
首を撫で擦りながら振り返った、山崎の頬を突っつく。ぷに、案外柔らかな頬に爪を刺さったのが地味に楽しい。
「吹部、人足んないんだろィ」
「足んないんですよー!三年生がドカッと抜けちゃって、二年生は三人に一年七人で」
その所為で部長になってしまったと、この間ぶーたれていた。
「卒業式、手伝ってやるよ」
「え、」
「人数合わせでよけりゃ」
一月になってから。あの人は何か言おうとしては口を閉ざすことが増えた。躊躇うような、ことで。問えば頬を染めるような、こと。嫌な予感がした。一月末からは自由登校も始まり、あの人も受験がありで易々と会えなくなる。会えない口実を増やして会う回数が減れば。あの人がそれを言う機会は減るわけで。
「助かります、お願いします!」
「ん」
会いたくないから、なんて理由だから礼を言われるほどではないのに。
*
ざわざわと落ち着かない。どこにいても、そう。三年生は最後の登校にざわめいていたり、送り出す側は好きな人でもいたのか三年生のほうをチラチラ窺っていたり。そんなのを眺めながら楽器の運搬を手伝う。帰宅部で暇だったから、山崎について何度か吹部に邪魔して楽器を吹いたりしていたから、演奏はなんとかなるはず。顧問の先生にも誉められたし。
この学校は卒業式で入退場、校歌斉唱のときに吹奏楽部が演奏をする。その演奏をする場所は体育館の入り口上の、二階と呼ぶには烏滸がましいスペースで。そこに楽器を運んで、式中はずっとそこにいる。そのスペースの壁は百五十センチぐらいの高さで、式を臨むことはできない。
声は聞こえても、あの人の姿を見ることはない。
「・・・沖田さん本当にいいんですか」
「なにが」
「・・・いや、土方さんが・・・」
言い澱まれても困る。何のために手伝うことにしたと思ってる。今日、会う時間を削りたいからだ。
重ねて山崎は言おうとしたけれど。指揮者の先生が前に立ち、話は終わった。
三組だったな、と吹きながらも耳をすませていると、三組の入場中黄色い歓声があがった。悲鳴まじりに名前を呼ぶのが聞こえる。あの人の姿を思い描こうと瞼を閉じた。
入場、卒業証書の授与に長い話。そのあとに、卒業生からの言葉がある。卒業生から学校へのものは、元生徒会長が読み上げた。在校生へのものは、土方さんが読み上げる、らしい。名前を呼ばれ返事する声に無意識に耳を尖らせた。そして、朗々と読み始めた声のみを聞く。
―――――総悟、と。
あの声に優しく呼ばれるのが好きだった。声が雄弁に、土方さんの気持ちを伝えてくれて。
吹部の手伝いをすると、土方さんには告げてある。さして何も言われなかったが悲しそうな顔をしていた。式後も片付けがあるし、三年生は打ち上げをするとも聞いた。もう、会えないかもしれない、この声をもう聞けないかもしれない。
あの七月に、戻れたらいいのに。
*
式は終わり、楽器の運搬も終わった。山崎にジュースをおごってもらっていたら携帯が鳴った。式のためバイブにして、そのままだ。
「もしもし」
『総悟』
「・・・土方さん」
『時間空いたらでいい。いつものとこな』
「ちょっ、」
プツリ。言うだけ言って切られた。
切れたままの携帯を眺めていたら、山崎がフッと息を吐いた。もしかしたら笑ったのかもしれない。
「最後ですし、行ってあげてください。じゃ、また明日、沖田さん」
山崎も言うだけ言って手を振りながら行ってしまって。選択肢を掻き消された気分だ。
・・・最後、だから。
仕方なく、階段を上る。いつもの場所、とは。生徒会室だ。二人でよくいた。金曜は生徒会室で下校時刻まで土方さんが書類を片付けるのを待ってから土方さん家に行ったりしていた。
今年になってから足を踏み入れるのは初めてのかもしれない。
立て付けの悪いドアを腰を入れ開閉して、衝立の奥へ向かう。人影が見えたからそこにいるのだろう。
一週間ぶりに会う、土方さん。見た途端胸が締め付けられたようになった。ブレザーの胸ポケットに人工の花が差してある。それが似合うから恐ろしい。男のくせに。
「・・・卒業おめでとうございまさァ」
「ありがとな」
柔く笑う、表情を見ていられなくて顔を反らす。早く。早く、別れの言葉を言えばいい。ありがとう、楽しかった、さよならと。
他の言葉はいらないから。
「総悟、」
「っわ、」
気を抜いていた。肩を掴まれて、ぐいっと抱き締められた。呼吸をすれば、微かに香る煙草の苦さ。私服ほどではないけれど、この人の匂い。
大人しくされるがまま、胸に顔を埋めていたら、背にあった手が腰へと滑った。
「やめっ、」
「好きだ、総悟・・・好きなんだ」
祈るような悲痛な声が耳に届いた。ハッと顔をあげると、声と同じような、表情。
そんな顔をしないで。
そんな言葉、言わないで。
見たくない。聞きたくない。だって、・・・だって。
俺に我が儘は言えない。好きだから。ずっと傍にいてほしいなんて、言ったって困らせるだけだ。
離さないでほしい、ずっと名前を呼んでいてほしい。
そんな、弱い言葉を吐くぐらいなら。切り捨てられた方がいい。切り捨てた方がいい。
好きだから。迷惑をかけたくない。
流されたフリをしていた。優越感に浸る、フリをしていた。本当は気付いていた、それらは嘘だと。そうじゃなきゃ、好きだと言われる度に胸が高鳴ったりしない。抱かれたり、しない。
自分に言い訳をしていた。そうでもしなければ、土方さんがほしくてほしくて、堪らなくなりそうだったから。
「もう毎日のようには、会えないけど。その分お前が愛しくなる。お前に会えない一日は長ぇよ、総悟・・・」
「ひじ、かたさん・・・」
「総悟・・・」
「・・・・・・好きでさァ」
ひゅっ、と息を吸ったのが聞こえた。驚いた顔をしている。当然だ、好きだって言ったのは初めてなのだから。
言葉にしたらもっと気持ちが溢れ出た。もう何もいらない。土方さんさえいればいい。
欲しくて我慢が効かなくて、俺に侵食されてしまえばいいと思う。ずっと一緒にいたい。
「お前が卒業したら、俺んとこ来い。永久就職、させてやるから」
「二年もありまさァ」
「そう遠くもねぇし、携帯だってあるんだ。・・・ってか、おまえも寂しいんだな、俺に毎日会えなくなんの」
「・・・そりゃあ、アンタほどの金蔓いねぇし。・・・キスも、滅多にできなくなるし」
恥ずかしさに俯けば、頬を優しくなぞられて顔をあげさせられた。
開いた窓からふわり、春の匂いがして泣きそうになる。
駄々はこねたくない。人知れず努力して、常に一歩ずつ前進していくこの人が好きなんだから。足手纏いになるのは嫌だ。理性ではそう思うのに。
「・・・キス、し貯めとくか」
「二年分ですかィ?」
「あぁ、二年分。・・・俺も我慢できねぇ」
泣きそうな笑みを浮かべた土方さんに、ちゅっと唇を寄せた。瞼を閉じることなく土方さんを目に焼き付けて、首の後ろに腕を回す。
ふわり。
風が吹き込み、優しい優しい春の匂いがした。
(目をつむって)
(さよならを)
(嘘つきな自分へ)
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