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梅々

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天鋼

久々の一日に二作の更新。


いやぁ頑張った。眠い。





では、おきたん土沖。
せっかくの趣味が生かされていませんが漸く土沖らしくなったかな。
















―――――気付いてしまったら、終わりだから。





茜の空の誘う艶言
六、ずぶぬれ自転車





 あっち出た時は晴れていたのに。思いながら親切にも屯所前までバスに乗せてくれたママにとても感謝して、その上傘まで貸してくれたものだから、今度一回ぐらいはバイトしに行く約束までした。いや、人間て本当に素晴らしい。
 じゃあな、と行く前よりも親しげに手を振ってくる万事屋三人にも手を振って。バスに気付いた山崎が迎えに来たのでん、と鞄を渡そうとしたら驚いた顔をしていた。

「・・・持てよ」

「ど、どうしたんですかその格好」

「じっちゃんばっちゃんに遊ばれた」

「・・・」

 絶句したままの山崎が俺の鞄を受けとる。ぶぉん、と走り去っていくバスに向かって再度大きく手を振って、過ぎ去っていくのを眺める。適度なとこで見送るの止め、視線を門に移した。

「・・・」

 煙草を咥えたまま目を見開いている、この二十四時間で何度も思考に登場した人。
 傘ももたずに門のど真ん中で立ち尽くしている。その姿が滑稽で、じっと熟視ていると煙草を指で挟み不意に、その唇が動いた。

「―――っ!!」

 ぱしゃん、傘が水溜まりに落ちて水が跳ねる。そんなの気にしないで雨の中できるだけ遠くへ走る。
 もう、嫌だ。俺は俺なのに。
 後ろの方で山崎の声が聞こえたけれど、構わずに走り続けた。

 女の人は凄い。こんな足にまとわりつくようなのを着て生活しているのだから。袴の半分も足が開かなくて、その上雨の所為で肌に張り付くし。服だけじゃなくて履き物も、草履よりも靴の方がいいだなんて当然のことを改めて思った。
 雨は止まず、あまり進めず、道端に置かれた自転車に目が行った。これに乗ったら遠くまで行ける。まぁ盗む羽目になるし、頭が冷めた頃帰らなくてはならないのだけれど。

ミツバ、と彼は言った。

 悲愴な色をほんの少し声に乗せて。そう見られたことが悲しいし、そんな声を出させた自分が嫌。

『あんたほどの別嬪さんなら誰でも愛でてくれるだろうねぇ。羨ましい』

 ケタケタ、おばあさんは笑って言った。だからってそれを求めたわけではないのだが。というかこんな女装したままでいた理由なんて着替えるのが面倒だったからとか、あの温泉街の人たちが楽しそうだったからとかしかない。ほんのちょっぴり、夢の所為ってのもあるけれど。
 上げていた前髪が頬を滑って張り付く。簪の存在を思い出して手を伸ばすと落ちかけたそれに触れた。
 血のような赤。こんなものより本物の血の方が自分に合うと知っている。

「・・・なにやってんだろ」

 とぼとぼと、大分屯所より遠退いた道を行く。裏道であるここは雨の所為で人影が一切ない。なんだか馬鹿らしくなって、空を仰ごうとしたその時。
 ぱしっと手を掴まれ、反射的に叩いて振り返ると濡れ鼠がもう一人。
驚いた俺の手をもう一度、その人は掴む。

「やっと掴まえた・・・」

「っじかたさん、離して」

 なんとか振り払おうとするけれど存外強い力で掴まれていて、叶わない。着物だけじゃなく俺まで女になったみたいに、非力だ。
 どうせなら着替えとか買えば良かった。ああだけど、財布も携帯も何もかも、山崎に渡した鞄に入れてしまっている。
 一瞬足りとも反らさず此方を見られていていたたまれなくて、俯いてなんとか瞼を瞑った。どうして掴まった? 後ろに誰もいないのを確認したのに。
 そこまで思ってからリン、と手の中存在を主張した簪に気付く。
 そうだ、これには鈴がついていた。

「離しなせぇってば、」

「離したらまた逃げるだろ」

「当然」

 挑むように睨めつけて口元に嘲笑を張りつけるとさっきと同じような顔をした。
 悲しそうな、顔。
そんな顔みたくはない。

「悪い」

「・・・なにが」

「・・・」

 黒い髪が顔に首に張りつき水滴を滴らせる。鴉色の隊服は水を吸ってより深い色になっている。こうしてみると白黒の世界のようだけど、ただ一つ、空色の目だけが存在を主張して鮮やかだ。
 対する俺は軽薄なまでにカラフルで、握り締めた簪も紅色の着物も、きっと髪も目も色づいているのだろうと思う。
 軽薄。今の俺にぴったりたりな言葉。

「やっぱり俺は、汚ねぇよ・・・」

「総悟・・・?」

 夢のあんたは言った。自分が綺麗であることを知るべきだ、と。
こんなにも軽薄で汚いのに、微塵もそうは思えない。
 姉上と重ねて欲しくない。それはあんたが傷つかないようにとかいう感情からではなくて、ただ。

俺を俺として見てほしい。

他の誰でもない、俺を。

俺、だけを―――――。

 独占心が胸を巣食って支配する。愛されるなんて無理だから嫌いになって。憎まれたくはない、そんな風になったら俺は生きていけない。
めんどくさいやつだって、分かっても近づいてくるあんたが疎ましくて、その手がいつも欲しくて、結果拒絶せずにはいられなかった。

だっててにはいらない。

 近藤さんは仕方ないと幼心にも分かって、諦念を抱いていた。博愛だから誰しもに同じぐらい愛情をお裾分けする。でも、それ以外の愛した人には一番を求めた。
 姉上にも。家族愛でいいから、愛を全て向けられたかった。愛情なんて相手によって片寄るものなのだから、それならばたくさん愛されたかった。姉上は手に入ると識っていた。
 だけどあんたは手に入らないと分かっていた。世界が違う、そう思った。誰か一人を深く愛すことはあってもその対象は俺になりえない。だから、俺は好きになる努力を放棄した。

一番になれないなら、愛されたくない。

「帰るから・・・離してくだせェ」

「いやだ」

 主観的な拒絶の言葉に力なく顔を上げた。頭がずきずき痛み始めている。短時間で考えすぎたせいかもしれない。
まっすぐに俺を見て、土方さんは何かを訴える。
 握られた手の温もりが心地好い。

「おまえに、気付いてほしいことがある」

「もう、気付いてまさァ・・・」

 ずっとずっと隠していたこころ。

俺はあんたが好きだった。

昔から。

・・・いまでも。

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